【舞浜戦記第1章】小動物の郷(くに)の片隅から眺める日々:スプラッシュ・マウンテン000

3 min
クリッターカントリー全景
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闘いの幕開け

スプラッシュマウンテン

この言葉を、僕は何百万回口にしたことか。
日本語に無理やり訳すと、水しぶきの山。

東京ディズニーランドの、メインエントランスから最も遠いテーマランド、クリッターカントリーの、さらに奥にそびえ立つ山。

アトラクション名は、スプラッシュマウンテン。
この名称は、物語の中のエピソードにもとづいて名付けられている。

このアトラクションの物語は、大まかに言うと、次のようなものだ。

「人間と動物が共存していた世界。設定としてはアメリカ南部の、沼地をイメージとした地域。小動物の国(郷)があった。ある日、アライグマが密造酒を作る蒸留器を誤って爆発させてしまう。山の中でこっそり作業をしていたのに大爆発により山の中に大きな空洞ができてしまい水浸しに。だがただでは転ばないこのアライグマは、できた水流を利用してアトラクションを作ってしまい、それが人間たちに大人気の乗り物となる。それがスプラッシュ・マウンテンと呼ばれるようになりました」
※公式資料より

自分史上最高のフェイバリットシーンは、乗り場と降り場が同時に見られる通路の途中

ディズニーのパーク内の施設には、全てにバックグラウンド・ストーリーという固有の物語が設定されている。
アトラクションだけではなく、レストランやショップにも存在している。
それらは決して表立って紹介されるものではないが、テーマパークを形作るあらゆる要素の根底に流れており、哲学を構成し、一貫した美学が基礎として存在し、目に見える施設、商品、インテリア、エクステリア、装飾、音楽、キャストの服装や身なりや言葉遣いへと再現されている。

入園し、クリッターカントリー(小動物の郷)と呼ばれるエリアへ入ると、急斜面の上り坂があり、奥へ奥へと進んでいく。
やがて、てっぺんに枯れた大木が突っ立った山が見えてくる。大木にぽっかり空いた穴から飛び出す丸太のボート。

それがスプラッシュ・マウンテン。
ボートは滝壺へ真っ逆さまに落ちていき、急流を流れ流れて山の中へと戻っていく。

自分が最も好きな情景
キャスト目線で見た、僕の一番好きなスプラッシュマウンテンをご紹介しよう。
と言っても遊びに来たお客さんの目線だと、それのどこがいいの? と言われてしまいそうだが。

滝壺を横目に、入口を入っていく。
ファストパスでもスタンバイでもいい。列は粉挽き小屋をかたどった建屋内へ入っていく。そしてさらに通路を進んでいくと、やがてファストパスを回収する地点に到達する。
そのまま進むと、ボート乗り場に到着し、乗船すると冒険の船旅へと出発する。
その、少し前だ。

ファストパスチケットを渡し、頭上からスポットライトを浴びるその場所を抜けると、通路は右に急カーブしてさらに坂を降りていき、しばらく真っ直ぐな下り坂が続く。

ここでもし、通路が人で埋まっておらず、ゆっくり下って行く贅沢が許される幸運に恵まれたなら、乗り場へはやる気持ちを抑えてほんの少しだけ、のんびりと歩いて欲しい。

暗い通路の中で目を凝らして、広くパノラマの視界をもって左右を眺めると、ボートが動いているのが見えるはずだ。

左側に乗り場、右側に降り場。
木の柵越しに、それぞれ配置されている。

左側を見れば、いよいよこれから乗り込むゲスト達を見ることができるし、右側に首を向ければ、帰って来たボートを迎えるキャストの声「おかえりなさーい!」が聞こえてくる。

僕は、この光景が一番のお気に入りだった。
なぜか。みんな(キャスト)が全力で働いている姿が一望できるからだ。
テーマパークをキャスト目線で眺めているので、ディズニー好きな方には興ざめかもしれない。

この光景は、その日一日を全力で突っ走って頑張ってきたキャストだけが見られる、宝のような光景だ。

  §

時間はパーククローズを間近に控えた21時55分くらい。
僕は最後に並んだゲストの後ろについて、歩いている。

閉園時間を前に、アトラクションキャストは並びに来るゲストに対し、入場終了を告げる。そして最後に並んだゲストの背後に一人のキャストがつき、以降並びに来た人々に対し、入場が終了したことを告げるのだ。

列が延々伸びている場合、まだまだゲストはやって来て並ぼうとするが、その都度告知してお帰りいただく。
最後尾のゲストがボートに乗るまでついていく。
列(スタンバイ)の最後尾はやがて建屋の中に入り、洞窟の中を進んでいき、例の視界が開ける位置へ到達する。

左側を見てみよう。
下の方に乗り場が見える。本日の運営がまもなく終わろうとする少し前、最後の力を振り絞ってゲストを乗せている乗り場のキャストたち。
いよいよ運営終了が近づきテンションが高くなっている子もいれば、疲労感に包まれヘロヘロになっている子もいる。

最後尾が坂の途中なので、あと5分で乗り場に到達だ。
もう少しで今日の勤務が終了する。誰もが今のポジションについて30分はたっているが、最後までこのまま行く。人数を聞いたりゲストに乗船を案内していたりバーを下げていたりボタンを押してボートを発進させたり、それももうすぐ終わる。今しも2台のボートが出発し、「いってらっしゃーい」の声で次のボートがやって来る。

次に、右側へ視界を移してみる。
やはり少し低い位置に、降り場がある。右側の後方から、帰還したボートがゲストを乗せて戻ってきて、水路に浮かんだまま流れてくるが、やがてズズズッと船底をこする音がして黒い巨大なベルトに乗り上げ、ぐっと加速し安定したスピードで降り場へ進入していく。

「おかえりなさーい」
とキャストが声を上げ、2台単位でボートは定位置にピタッと停止し、ガコンと作動音がしてバーが自動解除され、ゲストは降りていく。
乗り場はあと5分で最後のゲストを乗せるが、乗船時間が約10分少々あるので、降り場はあと15〜20分はこの光景が続く。

左側からは、いってらっしゃい。
右側からは、おかえりなさい。
どちら側も、みんなが頑張っている姿が一望にできる。

乗り場はもうすぐ勤務終了。
降り場はまだまだ頑張らなきゃな。
僕が13年間もスプラッシュを見続けた中で、最高のシーンがこれだ。
この時間、この視界以上に感動的な場所を、覚えていない。

この位置の光景を充実した感傷を持って眺められるのも、今日一日にあんなことやこんなことがあってようやく終わるのだ、という感慨があるからこそ実感できるのだ。
普通のゲストからは、何の変哲もないただの薄暗い洞窟内にしか見えないだろうけどね。

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あっくんさん

あっくんさん

元TDLにてアトラクションキャスト勤務を経験した十数年間を回想する場。このブログはそんな僕の、やすらぎの郷でございます(笑)。

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