身長制限の違いが生む喜劇と悲劇・幼児もまた、闘っているのだ:スプラッシュ・マウンテン001

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僕は東京ディズニーランドにある代表的なアトラクション、いわゆる三大マウンテンのキャストを経験している。スペースマウンテン、ビッグサンダーマウンテン、そしてスプラッシュマウンテン。

共通点は、どれも身長制限があること。(僕が現役だった頃はそれに加えて年齢制限もありましたが、今は撤廃されていますね)
小さなお子さんが乗りに来ると、必ず2つの条件をクリアしているか確認しなければならなかったので、常に小さい子と対面していました。

蒸気船マークトウェイン号は、赤ちゃんでも親と同伴なら乗れたので、むしろスプラッシュに異動したらもう小さい子と接する機会はなくなると考えていた。が……
むしろスプラッシュに来てみたら、逆に小さい子と接する機会が激増してしまった。

スリルライド(ジェットコースター)系アトラクションには利用制限があり、キャストは常に確認を行なっている。

中でも小さいお子さんのチェックは格段に厳しく行っている。うっかり乗れない子を並ばせてしまい、乗る直前になって乗れないことが発覚したら、ゲストが並び損となる。何よりガッカリだ。

(実は利用制限のあるアトラクションには『交替乗り』という方法もあるが、別の機会に触れます)

これから乗るゲストが、利用制限をクリアしているか確認する作業を、スクリーニングと言う。

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乗れない悲劇は、幼児にとっては福音かもしれない

お子さんと一緒に乗れないのでは意味がないと考える親御さんは多く、そんな悲劇を起こさないよう何重にもチェック体制を敷いているのだ。
コースター系キャストが入口付近で案内する際の、最重要業務といっても大げさではない。

昔は入口を入る時に確認、列の途中で確認、建屋を入る時に確認、チケット確認時に確認、乗り場で確認、と多い時で4〜5回身長確認をお願いしたものだ。当然だが親御さんはいい気分はしない。

それよりも、子供自身が何度も計測させられて嫌がるし、中には意味が分からず不安になり泣き出す子もいる。

スプラッシュの場合、滝つぼに落ちるボートの乗客が「キャー!」と叫んでいるのを眼前にして一層恐怖をつのらせてしまい、もう逃げたい気持ちがいっぱいに膨れ上がってしまった子がパニックに陥るという悪循環……。

特にスプラッシュは、並ぶ場所と入口の目の前にちょうど滝つぼがあり、見せ場ではあるが同時に小さな子供にとっては恐怖増幅装置となる。

幼児には「楽しいから叫ぶ」という価値観はない。叫ぶのは怖いからに決まっているし、これから自分があそこに乗るなんて絶対イヤだ!と思うのは至極当然の感情だ。

叫び声がキャー! ボートがドドーン! と落下音が鳴り響いて地下に吸い込まれていくと、子供はそばにいた両親に「ねえ、あれ乗るの?」と尋ねる。

明らかに怖がっているのに気付いたお父さんは、

「違う違う、あれじゃないよ」

と平然と嘘をつきごまかそうとする。
子供は何となく怪しい気配を察知し、親の言葉を疑っている。

すると、大抵お父さんは僕らキャストに聞くのだ。
「あれじゃないですよね?」と。

マズイ、子供が期待してこっちを見ている!(笑)

この場合、どう答えたらいいだろう。
お父さんの質問に対し、そのままはい、とかそうですね、と肯定したら?

この子がこのまま並んでボートに乗る時点で、ようやく親に騙されたことに気付いたら、激しく後悔し親を恨むだろう。さらにあの係の人まで嘘をついていたんだ……大人はみんな信用できない! と不信感の塊になってしまうに違いない。

この子にディズニーランドの人は信じられない連中だ、と猜疑心を植え付けないためにはどう答えたらいいだろう。

以下、僕が試した回答例を。
①「全然怖くないよー」
→これは全く効果がないし説得力もない。むしろ恐怖心を煽る。
子供の表情が『やっぱりあれ(滝から落ちる怖いやつ)じゃないか!』って勘づいて、険しくなります。

②「ほら、ゆっくり動くから平気だよ(滝の手前を流れるボートを指す)」
→これは、手前をゆっくり進むボートと滝からドーンと落ちるのは別物である、と勘違いさせる方法だ。ボートの進行方向が違うしあっちじゃないんだ、と誤解してくれる確率は少なくない。
これも全然答えになっていない。だが少なくとも僕は嘘つきにならずに済む。たまに違うのだと勘違いして安心する子もいる。

③「うさぎさんとかカメさんとかいっぱい出てきて楽しいよ」
→これは案外気を紛らわせるみたいで、ちょっと違うのかな?って顔になります。
子供が落ち着けば親御さんも一安心。(後はこの子を無理やり乗せるだけだ! とお父さんが悪魔の表情になっているのが痛ましい…)

並んでいる時は恐怖いっぱいだった子が、降りて来る頃にはケロッとしていることもある。

乗り場で嫌がる子供を見かけて、その後降り場のポジションへ移り、ちょうど帰ってきたボートを出迎える時。
降りてきたゲストの家族連れに見覚えがあった。さっき乗り場で怖がっていた子が、降りてきたら全然怖がっておらず楽しそう。降りて来るなり楽しかった〜と言ってくれるとホッとする。
そういうパターンもあるので子供は分からない。

乗れる悲劇があれば、乗れない悲劇もある

でも。
そんな素直なゲストばかりではないのです。

上のデータにもある通り、標準的な体格の子がいれば小さい子も、大きい子もいるのが当たり前です。
たまたま今の時点で小さい子がいても、何らおかしくありません。
今小さいからと言って、大柄な大人にならないと決まったわけじゃないし、子供の頃に大きかったからと言って大きくなると決まったわけでもない。

ところが、親御さんというのは、身長をクリアできないのは何かが足りない、と捉える傾向にあります。
身長をクリアできないのは、うちの子が劣っているからでは。
そう考えるのは致し方ないのかもしれません。

自分の子が乗れないのは、体格的に劣っているからだ。
身長が足りない=乗れないのは能力が低いという烙印を押されたかのように逆上する人もいるのですね。

「なんで駄目なんだよ、たった数ミリじゃないか!」というわけです。
たとえ1ミリでも身長が足りない場合は、乗せられない。

これは絶対です。

自分の子供の劣等性を証明されたような結果に納得できない親御さんは、当然ながら納得できない。
たった1センチだろ!大して違わないじゃないか!
と主張します。

たった1ミリだから、がもし許されたら、次はきっと2ミリを許されないことに対して怒るでしょうね。2ミリが許されたら3ミリが……ということで、許されない条件がある限り、許されないことへの不満が起こるでしょう

最後には条件があること自体への不満がつのるのは明らか。どこかで線引きしないといけないわけです。

お断りする時は毅然と行う、これがサービス業の必須にして基本中の基本です。

どうしても諦めきれない方もいるでしょう。そんな時は、他のアトラクションをお勧めする事も提案します。

これがビッグサンダー・マウンテンやスペース・マウンテンだと、
「うちは乗れませんがスプラッシュなら乗れるかもしれませんよ」
とおススメできるのですが。

残念ながら、最後の砦とも言えるスプラッシュで駄目となると、後はコースター系以外のアトラクションを勧めるしかありません。

納得できない親御さんは、力づくで入口を突破していくが……

いくら説明しても納得できずに、そのまま入口を突破する方もいます。
あるいは、並んでしばらく経ってから子供が乗れないことを知った場合は特に、諦めきれないわけです。

そうならないように、キャストは入口で常に目を光らせて厳重にモニタリングしているし、途中入場する方には必ず声をかけます。
にも関わらず、チェックなしに列に入ってしまう方は皆無ではないわけで。そんな親御さんは、キャストの制止を振り切って、力づくで突き進むのです……。

以前、こんなことがありました。
おそらく入口を入る時点では確認をすり抜けたかキャストが見逃したかで、途中入場し連れと合流した方で、途中でキャストが声をかけたところ、身長が足りないことが発覚。しかし乗れないことを告げても聞き入れない。

乗り場まで来ても諦めず、いいから乗せろと主張。乗れませんと再三に渡り伝えますが聞く耳を持たず。
ついに強引にボートに乗り込み、お子さんを乗せてしまいました。

その時までにはすでにリード(責任者)へ報告が行っているので、最終的に乗り場で対応するのはリードです。

もちろん出発はさせられない。
停止したままのボートを挟んで、岸でしゃがんで接するリードと、ボート上の怒り狂ったお父さんが対峙する。

「早く出せ!」と怒鳴るお父さん。
「出せません」ときっぱり断るリード。
「他の客に迷惑だろ! 出せって言ってんだよ!」
「安全が確保できない限り、出せません。降りて下さい」

お互いに譲らないまま、1分が過ぎ、2分が過ぎる。

乗り場の2台のボートには出発を待つ他のゲストがすでに乗船を済ませている。
乗り場の手前の斜面、並んでいるゲスト達が前方の異変に気づき、何事かと見守っている。

スムーズに動いていた列も完全に止まり、明らかにトラブルが起きていることは明白。そして誰かがわめき散らしているとなれば、見世物になるのは当のお父さん以外にいない。

「出せー!!(絶叫)」
「できません。降りて下さい」
押し問答が続き、さらに時間が過ぎていく。

すでに出発したボートはアトラクション内部で滞留し、前のボートにぶつかり次々と停止していく。
乗り場が止まればその手前の降り場も止まる。少しすると、滝のてっぺんのボートが止まる。さらに手前の斜面でも止まり、もっと手前の部分でも停滞が始まる。数分あれば全てのボートが順次停止する。
乗船中のゲストも何事か、と思うだろう。

全てのボートが停滞すると、乗船中のゲストに聞こえるように、自動音声の案内が流れる。

『〜みなさん、しばらく座って待っていて下さいね』

と、動物のキャラクターの声で案内する音声(声優の八奈見乗児さんがナレーション)は、館内全域から外側まで聞こえるので、屋内のゲストと、屋外で並んでいるゲストにも聞こえている。

スプラッシュの屋内キューエリアは下り坂になっていて、途中で下方を見下ろすことができ、最も低い位置にある、乗り場の様子を観察できる。乗船が止まっていればその様子を見ることもできる。
何かが起きているのは、一目瞭然だ。

さらに数分が過ぎる。その間リードは説得を続けている。

しびれを切らしたお父さんは、ついに根負けしたのか、
「訴えてやるからな!」
と怒鳴って子供を連れて降りていった。

何事もなかったように乗船は再開され、止まっていたボートは再び動き出す。ホッとしたように並んでいたゲスト達は順番にボートに乗り込み、次々と出発していく。

後で休憩中に、対応したリードへ、
「さっきは大変でしたね」と声をかける。
別の誰かが、
「無理やり乗り込まれて超焦っちゃった」
と言い、僕も
「よく断れましたねぇ」と言うと、
「あったり前だろ、誰が乗せるかってんだ」
と啖呵を切るリード。

この時ばかりは、普段小うるさいこの人にしては筋が通ってるじゃんか、と見直したり感心したりしたものです。

イカすじゃんか、K村さんよぉ。

あ、でも彼は顔が強面だったからなぁ……(笑)

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