かなりごちゃついてきたので、まとめておきます。
舞浜戦記ってなんぞや?
という方は、まずこちらをお読みください。
専門用語ばっかりでわけわからん、と言う方は、こちらを。
ますます混乱するかもしれませんが。
警告:何事も、ほどほどに。
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新しい顔が増えて一気に活気づいたこの年は、まさに新しい人達が新しい雰囲気を運んできてくれたと記憶している。
僕らオープニングキャスト達がぎりぎりの人数で踏ん張って持ちこたえて、真冬の険しい山をようやく乗り越えてみると、そこへ吹き下ろした春の嵐が淀んだ空気を蹴散らし、一気に塗り替えたような感覚を覚えたのだ。
そして夏を迎えるくらいには、すっかり成長した春キャスト達が、僕らとほぼ肩を並べるくらいまでに、めざましい活躍を始めていた。
驚くべき変化であり、成長だった。
喧騒と混乱は、相変わらず続いていたのだが。
目次
リード達から選ばれた男
春の新人達がめざましく成長していくのを横目で見ながら、なぜ僕自身は成長しないのか、成長できないのかと考えていた。
彼らは単に、まっさらのゼロからメキメキと知識、経験を吸収していただけであり、自分にとっての成長とは意味が違うと、分かってはいたのだが。
いやいや。
僕は、自分が成長したいなんてこれっぽっちも思っていなかった。
ただ、そこそこ仕事ができればそれでいいじゃないか。
でも同時に、それじゃ何も変わらないよな、と心のどこかで、うっすら感じていたにもかかわらずだ。
★
オープニングキャストの一人に、カモさん(♂)がいた。
彼は学生であり土日キャストだった。
ウエスタンリバー鉄道から異動してきた時は学生最後の年であり、普通に就職活動も行っていた。無事内定も獲得し、次の春には就職予定だった。
スプラッシュに異動を希望するキャストは、その条件として「最低でも一年以上勤務が可能であること」というのがあった。
つまり、彼はその条件を破ることを前提で、応募したのだ。
いや、まさか自分のキャスト生活が残り半年しかないのに、異動希望を叶えてくれるとは予想していなかったのだ。
無事(?)異動できた彼は、どうしたか。
スプラッシュへの異動を叶えてくれた恩義に応えて、当時内定していた就職先の大手ゼネコンを蹴って、もう一年キャストを続けることを決意した。
企業の人事担当の方も理解を示してくれて、内定辞退を快く了承してくれたそうだ。
彼は意図して、留年を選んだのだ。
学生の身分だったので、その後の1年間も土日しか勤務に入らなかった。
彼は、ウエスタンリバー鉄道時代はトレーナーでもあった。
そこで、彼に与えられた仕事は二つだけに集中していた。
一つはトレーニングだ。新人を教えるための、トレーナーとしての勤務。
そしてもう一つが、外浮きである。
春の新人が入ってくる期間が終わると、彼はほぼ100%のシフトが外浮きになった。
毎週土日に出勤するたびに、彼は常に屋外に出てゲスコンをやっていた。
そして多忙を極めたスプラッシュの屋外の業務を、リード達と協力して、精力的に活躍していた。
まるで、リードの補佐のような、別格の存在になっていた。
選ばれた特別な存在として、別世界で働いているかのように思えたものだ。
彼こそが「選ばれた」人なのだな。
そう僕は理解した。
彼こそが、有能でリード達から評価された人なのだ、と。
だが同時に、疑問も湧いてくる。
それでは、彼が優れていたのはどんな点なのか?
そこで僕は、彼のどこが優れているのかを探るようになった。
カモさんはどちらかというと、無口でぶっきらぼうな感じの人だ。誰にでも気安く話しかける人ではない。
ただ、話してみると面白い人ではある。
ゲスコンをやっている時も、黙々と仕事に打ち込むようなところがあった。あたかも職人のように、一心不乱に。
忙しいのもあっただろう。用もないのにお喋りをするようなタイプではない。
だから、この人はすごいな、と素直に認められる部分は残念ながら感じられなかった。僕が尊敬するタカオさんのように、特別な要素を見つけることができなかったのだ。
なぜ彼が、リード達から認められていたのかが理解できなかった。
就職を一年先送りにしたから評価されたのか。
それはあるだろう。TDLの施設の建設も担うくらいの、誰でも聞いたことのある有名な建設会社の内定を蹴ってまでスプラッシュに貢献した彼。
あるリードも言っていた。「あんな男気を見せられたら、それに応えないわけにはいかないよ」と。
そんなやり方でアピールされたら、誰もかなわない。
それが一番の理由か。
また、元々トレーナー経験があったのだから、異動してもそれなりの評価を受けるのは当然だ。
それも、僕にはない要素だ。
そりゃあ、かなわない。
仲良しグループから浮かび上がる、人事方程式
春を迎える少し前。
冬の間、僕らオープニングキャストは、次第に親睦を深めていった。
その中でも、仲良くなる法則ができつつあるのを感じていた。
元々、同じエリアから来た人たちは、早く打ち解けあうのだ。
僕もそうだったが、アドベンチャー・ウエスタンランドから移動して来た人とはすぐに仲良くなる。
タカオさんもそうだし、まだ紹介していないマークトウェインからのスギさんナベさん、パイレーツ出身のガンちゃん、汽車から来たシノちゃんなどは、比較的仲良くなるのも早かった。
もちろん出身エリアなんぞ関係なしに仲良くなる人だっていた。加賀谷くんだってその1人だし。(彼は誰とでも仲良くなったけど)
その中で、僕があまり親しくなかったグループがあった。彼らはトゥモローやファンタジー出身の人達だ。
彼らはどこかしらで一緒に勤務したことのある間柄で、リードとかキャストの枠を越えた一団だった。
彼らは公私を共にし、スキー・スノボに何度も行ったりしていたようだ。
その中に、カモさんも含まれていた。
彼は不思議と、あちらのエリアのグループとも親しくしていたのだ。
彼らが旅行から帰って来た翌日などは親密さを隠さず、旅行の話題に盛り上がっていた。カモさんのスキーの腕前はインストラクター並だと称賛しているのを耳にしたことがある。
僕は、彼らの行動がいちいち気になっていた。
なぜ、そんなに気になっていたのか。
それは、その後の1年ほどの人事を見ていれば明白だった。
このグループに含まれるキャスト達の多くが、何人もトレーナーに昇格していったからだ。
ある条件と法則が組み合わさると、一つの方程式が浮かび上がる。
それは実にバカバカしい考え方であり、気のせいだと何度も思い直したが……。
方程式は、くっきりと、鮮明なコントラストを持って浮かび上がってきた。
まさか、な。
まさか、リード達と仲良くなると自動的にトレーナーになるの?
と勘違いするほど、彼らの中から次々とトレーナーが生まれていったのだ。
例外は、K谷君くらいのものだった。
いや、勘違いに決まってる。そんなくだらない理由で決められるなんてことがあり得るだろうか。
僕は必死に、そのくだらない妄想を打ち消そうとした。
彼らは、優秀なキャストだったのか?
彼女は違うと思う。
そして彼も、彼女も違う。
キャストとしての能力や日頃の行動を見ても、特段優れている点を見出すことができなかった。
むしろ、サボっている人だっているくらいだ。
誰も見ていないのをいいことに、適当なことをやっている彼ら。
そんなのが、トレーナーなのか。
それが、リード達の出した答えなのか。
僕の中で、釈然としない疑惑が、湧き上がっていた。