園外まで響き渡る鐘の音【蒸気船マークトウェイン号001】

4 min
スポンサードリンク

僕が東京ディズニーランドのキャストとして、初めて配属されたのが、白い大きな船【蒸気船マークトウェイン号】です。期間は約一年半なので、キャスト歴としては二番目に長いのだけど、初めてキャストの仕事をしたためか、非常に印象に残るできごとがたくさんあります。

スプラッシュ・マウンテンは期間が長いので、その分思い出も多いけど、鮮烈さという点では、マークトウェイン号の方が記憶に残っていたりします。

というわけで、最も強く印象に残っているネタからお届けします(笑)。

しょっぱなからこんな話をするのもなんだが、僕はキャスト現役中の14年半の間に、ゲストに二度殴られたことがある。
蹴られたことや襟首を掴まれたりはさらに多く、怒鳴られたことは無数にあるので覚えていないくらいだ。

などと書くと、僕がロクでもないキャストだなと思われるだけなので(半分正解ですが笑)、ちょっとだけ言い訳をしておきたい。

というわけで、今回は最初に殴られた時のエピソードである。

スポンサードリンク

喧嘩は突然始まり、もみ合いから僕だけが殴られた

キャストデビューして半月ほどたった頃。

僕は蒸気船マークトウェイン号で勤務していた。ウエスタンランドの奥にある、白い大きな外輪船だ。船内は3階建てのデッキで構成され460名(当時)の乗客を乗せてアメリカ河を周航している。キャストもまた一緒に乗船し、円環状の河をぐるりと一周回って戻ってくる。
のんびりした所要時間12〜13分の、西部開拓時代のアメリカの船旅を楽しむアトラクションだ。

ちなみに、マークトウェイン号のキャストは黒いジャケットとスラックス、白いシャツと赤い蝶タイ、頭には船員の帽子をかぶっている。

春休みの繁忙期も過ぎて落ち着いた、4月のある平日。

蒸気船が両岸を緑に囲まれたアメリカ河を進み、数分が過ぎたあたりで、突然中年女性ゲストが僕に駆け寄ってきた。

「ちょっと船員さん、ケンカよ」

上の階だということで、慌てて3階デッキに駆けつけると、二人の男性がつかみ合いになっている。男の胸ぐらをつかんで怒鳴っている若いお兄ちゃんがいた。

二十代半ばくらいのお兄ちゃんは、テメエとかぶっ殺すぞなどとわめき散らしていた。襟首を掴まれたもう一方の中年男性は、面倒くさそうに逃げようとしたが、お兄ちゃんの方がガッチリつかんで離さない。

とにかく止めなきゃ、と思った僕は駆け寄って、
「やめて下さい。どうしたんですか?」
と言ってみたが、やめる気配は一切なく、僕は完全に蚊帳の外だ。

らちが明かないので、僕は二人を引き離そうと試みた。

若いお兄ちゃんは「人の女に手出してんじゃねえよ」と怒鳴り、中年男性の方は「やってねえよ、うるせえな」と言い訳する。

事情が少し飲み込めて来た。

すぐそばにいた若い女性が、お兄ちゃんに「やめなよ……もういいから」などと言っているので、二人がカップルだと気付いた。

「こいつが手を出しやがったんだ!」
故意にかどうか分からないが、中年男性が彼女にちょっかいを出したというのだ。

「何もしてねーよ」
「てめえ、触っただろ!」
とますます興奮する彼氏。

僕が駆けつけた時には取っ組み合いになっていたので真偽のほどは不明だ。中年男性は見たところ、体格も普通で特に荒れてる感じもなく、身の潔白を訴えるようでもない。
ただ相手にするのが面倒だ、という雰囲気だ。

ほっとくわけにもいかないし、かと言って止めに入った僕はほぼ無視された状態だ。これではカッコがつかない。
何としても止めなきゃ!と意気込んでみたものの、二人の間に割って入ろうとしてもうまくいかない。しかしここで引っ込むわけにもいかず、膠着状態。

一方的につかみかかっているのは彼氏の方だから、まず彼を何とかしなきゃと考え、僕は彼氏を止めにかかった。腕をつかんで引き離そうとする。
「とにかく落ち着いて下さい……!」

睨む彼氏。

「お前、金のためにやってんだろ! すっ込んでろよ!」
と彼氏が僕の腕を押し戻す。

はいはい、その通りですよ〜、と答えたかったが(笑)
言えるわけもない。

しばらく揉み合っていると、ついに我慢できなくなったのか、彼氏が僕の顔を殴りつけた。

ガツっと打たれて僕はひるむ。

その隙に中年男性は逃げ出してしまった。アホらしい、やってらんねえ、とか呟きながら逃げる中年男性。

ところで。
終始横にいた彼女はモデルのような美人で、二人が格闘している間も彼氏にやめなよ、と何度も言いながら仲裁に入ろうとしていたが彼氏は聞く耳を持たない状態だった。
そのうち彼女も我慢できなくなったのか、

「もういい! 私帰る!」

と半ギレで泣き出した。船はちょうど船着場から最も離れたあたりで、船着き場に戻るにはまだ5分以上かかるだろう。

当事者は逃げ出し、僕だけが被害者?

ん、ちょっと待って。男2人は喧嘩してはいたものの、殴り合いはしていない。
てことは、被害を受けたのは僕だけじゃないか!(笑)

どう考えても、納得がいかない……(笑)

船内で喧嘩が発生した時、マークトウェイン号キャストはまず責任者(リード)に無線で連絡しなければならない。無線機を所持しているのは操舵室のキャストのみなので、僕は一旦その場を離れ、操舵室へ向かう。

操舵室の先輩に事情を説明し連絡を取ってもらい、また現場へ戻る。

さっきの二人は離れていた。中年男性はどこかへ去ってしまい姿がない。探せば見つかるはずだが別の階のデッキへ逃げたようだ。再び喧嘩が再燃しないように僕は見張ることにする。

と言ってもその場に居続ける事はできない。
僕のその時のポジションはメイン(1階)デッキだ。このポジションは、そろそろ船が船着場へ戻るため、停船の準備にかからねばならない。

トムソーヤ島の突端にあるハーパーの粉挽き小屋を周ると、ようやく船着場が見えてくる。

船は帰還の合図に、汽笛と鐘を鳴らす。

蒸気船が船着場へゆっくりと減速しながら接近し、やがて岸へ着岸する。僕は船首近くの船べりに立ち、完全に停船するまで見守る。

完全に停船する直前に、ドック(船着場)のキャストから係留ロープを受け取り、船のデッキ側の係留ポストにかける。この作業の間は例のカップルから目を離さざるを得ない。

ドックにて待機していたリードのF原さんが、さっと船に乗り込んでくる。

僕にこっそり耳打ちし、
「今(カップルは)どこにいる?」
「テキサス(3階デッキ)にいました」
「もう一方は?」
「(ぞろぞろ下船するゲストの中の一人を指して)あの人です」
「どっちの出口から出たか見てて」

マークトウェイン号の出口は2箇所。
船を降りたゲストはウエスタン側とファンタジー側の二箇所の出口へ分かれて出ていく。

僕はドックの隅に立ち、出て来るゲストを追いかけた。中年男性は船の後方、ファンタジー側の出口からふらふらと出て行き、それをF原さんに教えた。

出口脇にはいつのまにかセキュリティキャストが2人ほど待機していて、追跡を始めるところだった。

F原さんはカップルの方へ近づき声をかけて怪我はないか確認したり救護室へ案内を提案したが、特に必要ないということで、その場を去っていった。

後から考えてみると、先に手を出したのは若い彼氏の方であり、中年男性が実際に彼女にちょっかいをかけたのを目撃したわけではない。ひょっとしたら彼氏の勘違いだった可能性もある。相手の中年男性は悪びれる様子もなかったし。
キレイな彼女の手前、勇ましいところを見せたかったのもあるだろう。

その後、セキュリティキャストが途中まで中年男性を追跡したが、特に異常な行為は見られなかったようだ。

あ、そうだ。
この時、僕はリードに自分が殴られた事を報告していなかった。

報告してれば救護室にも行けたかも。まあ救護室の話はまたこの次にしよう。

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です