人は自らの性格を変えることができると確信する理由【蒸気船マークトウェイン号006】

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初夏のアメリカ河は美しい。

ウエスタンランドの植栽は草花が青々と茂り、小さな鳥や虫たちが活発に飛び交う不思議な空間だ。
その中を優雅に進むマークトウェイン号は、まさに西部開拓時代のアメリカそのものである。

河べりにはコンクリートの土手を覆い隠すほどの水草が生えて人工的なパークの継ぎ目を巧妙に隠してくれている。
船内には陽気な音楽が始終流れ、時折船長のナレーションにより船旅の解説が聞ける。
そんな中をのんびりと船は進み、僕らキャストも同乗するのだ。なんとも言えない独特の雰囲気だ。作られた世界なのに本当の西部にいるよう。これぞテーマパーク。

僕はマークトウェイン号の1階デッキから、トムソーヤ島を眺める。もうすぐカヌー乗り場が見えてくるくらいの位置にいた。

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カヌーキャストはノリのいい男たち

キャストが休憩する場所をブレイクエリアという。休憩と言っても10分弱の短い休憩の事だ。食事休憩は、運営部ではランチと呼ぶ。
ブレイクエリアはバックステージに数ヶ所あり、1〜1.5時間に1回行けるよう設定されている。(ロケーションによって異なる)
マークトウェイン号のキャストは通常、ファンタジーランドにあるピーターパン空の旅の裏側にあるブレイクエリアに行く。

マークトウェイン号とカヌーのキャストは、同じアメリカ河のアトラクションでありながら勤務中は話をする機会があまりない。
これは社内編成の話になるのだが、後年、複数のアトラクションが同じ部署(ロケーション)として区分けされるようになる。マークトウェイン号、カヌー、トムソーヤ島いかだの3つは、複合化によって一つの「ロケーション」になる。当時はまだ単体だったのだ。

とは言え、距離的に近いし同じアメリカ河を航行する船舶のため、お互いに安全確認をし合う仲でもある。
また以前のKご君の話でもふれたが、キャスト同士の交流も他と比べれば活発なので知り合いも自然と増える。

ブレイクエリアで顔を合わせるカヌーキャストはみんなノリがいい。まるで打ち合わせたかのように冗談を言い合い、勤務中も休憩中もテンションが高いのだ。

オンステージから裏側のバックステージへ出て、ブレイクエリアに行く途中で、カヌーキャスト同士がすれ違う時、お疲れ様です、と声を掛ける代わりに妙なポーズを交わし合っているのを見かけたり。
仲のいい同士であれば珍しくもない。打ち合わせたわけでもなく自然にその場のノリで交わしている。

マーク(トウェイン号)とカヌーは、アメリカ河をお互いに譲り合って運行している。
アメリカ河の運行優先権は、3つのアトラクションのトレーニングを受けた際、最初に教わるルールだ。この3つの乗り物が河の上でバッティングした時の優先順位。それは機動能力で決められている。
機敏な動きができない順。優先度の高い順に、カヌー、マーク、いかだとなる。

たとえば、蒸気船が出発する際は、河の上流(背後)から進入してくるカヌーがいないか確認する。ちなみに、円環状につながったアメリカ河は反時計回りに水が流れている。マークトウェイン号もカヌーも、その流れに逆らって(エンジンや人力で)進むのだ。いかだは陸地側(ウエスタンランド側)と島との往復を繰り返している。

カヌーキャストがカヌーの船首や船尾に乗っている際に蒸気船の船着場に接近するとき。ちょうどマークトウェイン号も出発する時はかち合ってしまう。しかし優先度はカヌーの方が高いため、先に河を航行できる権利が与えられている。

カヌーキャストは、自分のカヌーがトムソーヤ島のカーブを回って蒸気船の船着場にさしかかる直前。
この時点でマークトウェイン号の汽笛が聞こえてくると、自分が先に行くか、マークトウェイン号の出発を待つかの判断を行う。蒸気船が汽笛と鐘を鳴らすのは出発の合図だからだ。

カヌーが間に合いそうなら、ちょっと急ぎ目に漕いでスピードを上げてカーブを回り、巨大な船の横を通り抜けていく。

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逆に、タイミング的に通過するのが間に合わない時は、カヌーに乗ったゲストに漕ぐのをいったんやめさせて、船が出発してからその後ろをのんびりペースでついていく。
逆に、マークトウェイン号からすると、後方から接近してくる細長い船体を見つければ、出発せずにやり過ごしてから出発する。

元々スピードはカヌーの方が速いので蒸気船が追いつくことはないが、逆にカヌーが後ろからどんどん接近してくることはある。その際はカヌーが減速して追い越さないように配慮する。カヌーは決して蒸気船を途中で追い越したりしない。
これがアメリカ河のルールなのだ。

おっと、話がそれてしまった。

当時のカヌー乗り場はウエスタンランドの奥地のアメリカ河に囲まれた、トムソーヤ島の中にあった。
いかだの予備の接岸場所だった場所を、一時的な乗り場としていたのだ。
これは当時クリッターカントリーの建設に伴い、元々ホーンテッドマンションの裏庭にあった乗り場を島内へ移設したのだ。
その後、クリッターカントリーが完成してから元の場所に戻って現在に至る。
(1991年以前のガイドマップをお持ちの方はぜひ引っ張りだして見て下さい)

ちょうど蒸気船が、旧カヌー乗り場へ差しかかったときのことだ。

マークに乗船している僕が1階デッキからカヌー乗り場を眺めていると、キャストはゲストにパドル(オールのこと)を手渡ししている。

さっきブレイクエリアにいた彼だ。
これから乗船するゲストたちが細長いカヌー乗り場に一列に並び、巨大な船が通過するのを待っている。

のんびり進む船の1階デッキから見ていると、今しもパドルを手にしたゲストの女の子たちのグループが一列に並び、カヌーキャストの説明を受けているところだった。
そこで突然彼が、船上の僕を指差し、女の子たちに、

「さあ、みんなであのマークトウェイン号のお兄さん(僕のこと)に手を振りましょう。はい、お兄さーん!

女の子たちは声を合わせて僕に向かって「おにいさーん!」と声をかけてくる。

新人さんはたった3ヶ月で別人のように明るい性格に

少し時期は前後するが、マークトウェイン号にも僕らの次の新人が入ってきた。

リードのF原さんから、もう春キャスは新人じゃないぞ、次の夏キャスが入って来るから。しっかりしないと追い越されるよ、と言われていた。
夏期キャストは混雑が予想される夏休みに備えて補充を行うために採用される人材だ。夏休みにはバリバリ活躍してもらいたいので、6月頃から入れて徐々に慣らしていくのだ。
もう次の新人が入ってくるのか! 僕ら春キャスが入ってまだ2ヶ月足らずなのに……。ややプレッシャーを感じつつ、新人さんを受け入れることになった。

そんな中、入って来た夏キャスの一人が「鬼ちゃん」である。20歳か21歳の青年だ。
彼の第一印象は、とにかく暗いの一言である。ニコリともしない。話しかけてもちゃんと返事をしない。キャストの初歩中の初歩は笑顔だが、それどころではない感じで、これはきっと苦労するだろうなと思ったものだ。

ところが。
夏休みが終わる頃、つまり入って約3ヶ月後。
鬼ちゃんはすっかり別人のように明るい性格になっていた。誰かが冗談を言えばそれに返す言葉もなかなか慣れたものだ。寡黙というよりむしろおしゃべりなの?ってくらい、活発に話すようになっていた。
僕は見違えるような彼のキャラの変化に、驚かざるをえない。
鬼ちゃんは元々明るい人だったのか。緊張していたから暗く見えた? 僕の見立てが間違っていただけか。分からない。
彼だけではない。僕の後に入って来た新人さんで、入って来た直後〜数ヶ月後にキャラが変化したケースが少なくないのだ。

人の性格はそんなに簡単に変わるのか。いや変わるわけがないと思い込んでいた僕の常識が音を立てて崩れ去った。

その後、数百名の新人さんを見てきて今思うのは、周りの環境がそうさせるのではないかということだ。

テーマパークで働くキャスト達は日々大勢のお客様(ゲスト)と接している。喜びと感動を体験するゲストと毎日のように接していると、まるで共鳴するように喜びの連鎖の一部となり、好感情に包まれてある種の錯覚を起こす。その錯覚に「ノッた」人はどんどん自己暗示をかけて性格が変わっていくのではないか。
もちろん、人と接するということは摩擦が生まれるものなので、時にはゲストの悪感情とぶつからなければならないし、クレームを受けて沈むこともある。だがそんな機会はごく一部に過ぎない。

また周囲の先輩達も、当人の性格を少しずつ掴んでいくうちに色々いじり始める。この人はどんな性格だろう、どんなネタを振ると反応するんだろう。周囲がツッコむ。暗かったキャラの人も、徐々に自己暗示にかかり、自分の気づかなかった一面を発見する。親しくなるうちに本人が目覚めるのだ。

自分はハジけていいんだ。もっと自分を表現していいんだ。表現することを許されているんだ。先輩たちのセンスのいい話術を吸収もするだろう。掛け合いを見よう見まねで習得するだろう。環境は人を変えるのだ。
暗く内向的だった人が『ノッていく』瞬間を見ると、僕は言い知れぬ感動を覚える。
間違いない、人は変われる。

ただし、周囲に変えてもらうと言うよりは、自分から変わるよう向かっていくことも大事だ。周りがいじっても反応しない人はそのままだ。

すぐに簡単に変われないかもしれない。でも少しずつでいい、ちょっとずつ変化するよう努めていく。
そしてそんなきっかけに出会うのが、テーマパークという特殊な環境に放り出されるキャストなのだ。

僕も負けじと、彼らのノリに付き合うぜ!

話は戻る。

マークトウェイン号に乗って船内を歩く。航行中はゲストの安全を確認するため、1階〜3階デッキを歩き回る。ちょうどその時は1階デッキを見回っていた時であり、船内からトムソーヤ島を眺めていると、ちょうど旧カヌー乗り場に差しかかったのだ。

マークトウェイン号の1階デッキとカヌー乗り場はほぼ目線が同じ。若干船の方が高いくらい。だから数メートル離れて僕と、ゲストの女の子やカヌーキャストの彼は対面している。

カヌーキャストに乗せられたゲストの女の子たちは、僕に向かって元気な声援を送る。

「おにいさーん!」

反射的に僕は彼女たちへ、気合いを入れたポーズを見せる。
左手を斜め上に思いっきり上げ、右肘を曲げてグッと天井を向いてポージング。(文字で説明するのは難しいけど、よくボディビルダーがやるような感じのポーズです)

予想外にウケたようで、女の子たちは爆笑していた。
カヌーキャストの彼も、僕がそこまでするとは思わず、ポカンとした顔をし、それから腹を押さえて笑っていた。

いいノリだね。やるじゃん。
そう言いたそうな顔をしていた。
そう、やるときはやる。

その後ブレイクエリア付近で彼とすれ違った時、ちょっと親しげに挨拶してくれたのはよく覚えている。

あ、そうか。変わったのは僕も同じか。

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