テレビでもウェブメディアでも、季節の変わり目ごとに話題を提供するディズニー・パーク情報。新しいイベント、新アトラクション、新商品やメニューの紹介。
地上波テレビや専門チャンネルでたびたび放送されますよね。
パーク内で働いていると、取材クルーが頻繁にやって来ては撮影している風景に出くわす。
ある時は情報番組の中のディズニーコーナーの特集、またある時はニュース番組の外観撮影のみ。芸能人をレポーターに撮影クルーがやって来るのも日常的に見かける風景だ。
スプラッシュで勤務していた時、放送開始して1年くらいの頃の、TBSの情報番組「王様のブランチ」の撮影が入ったことがあった。
その日は土曜日だったこともあり、忙しかった僕は、スタンバイエントランス付近で撮影しているカメラとレポーターの間を堂々と横切ってやったことがある。あの時はどうもすみません(笑)
あとで放送を見ていたキャストの子が、一瞬僕が写ったと言っていた(汗)。
生中継だったと知った時は後の祭り……。
目次
ある日、テレビ局の撮影が入った
僕が最初に遭遇したテレビ取材は、ある地方のテレビ局の撮影クルーであった。
マークトウェイン号で勤務中のこと。
朝の勤務前の朝礼にて、今日はテレビの取材が来ることになっていると聞かされていた。事前に取材が入る時は周知され、大体何時頃来るかとか、どこを撮影するかなどが告知される。
11時を回った頃、どうやらそれらしき数人のグループが大きな機材を持ってやって来た。あれがテレビ局の取材かー、と眺めていると、彼らは準備を始めて、様々な場所をカメラに収めていく。
陸の撮影が終わると次は船内を撮るらしく、船に乗り込んで来た。
通常、取材などの一般ゲスト以外の人が船に乗り込む場合、出口から入場させる。リードがウエスタンランド側の出口の扉を開けて、取材スタッフを中へ入れる。
その時、僕は船着場のポジションについていた。待合室から出たゲストが船着場を通り、蒸気船の側面入口へ誘導し、乗船させる役割だ。
上図、ちょうど真ん中の建物が待合室ですね。
そして建物の外側、アメリカ河に面した長い木の床部分が船着場(ドック)だ。
このポジションは、次に出航する船には乗らない。
船着場に残り、一周して戻ってくるマークトウェイン号を迎える。
船が着岸しゲストが全員下船すると、次のゲストを乗せる前に、取材クルーが船着場の隅っこで待機する。
ゲストが乗船し終わると、カメラマンを始め三名の取材クルーが静かに乗船していく。
出航の準備が整った。
僕は船着場の手前の、待合室の扉を閉める。背の低い木の観音開きの扉を閉じると、それがゲストの乗船完了の合図になる。
取材クルーも出航を待ち受けていた。
出航だ。
船着場のキャストは船と操舵室に向かって気合を込めて、
「出航ー!」
と大声で告げる。船着場ポジションの見せ場だ。
★
アトラクションキャストは、それぞれ独自の見せ場がある。
これは職責というよりは、演出上のいわば「カッコつけ」と言ってもいいかもしれない。でもキャストによって個性を発揮できる場面だ。
たとえばスターツアーズのキャストは扉が閉まる直前に「ハブ・ア・ナイスフライト!」と告げて敬礼する。
そのセリフを告げる間合いを扉が閉まるタイミングと合わせるところや、敬礼の仕方が各自個性を出していて、一人一人微妙に違う。といっても非常にささいなレベルの違いなので、1、2回見ただけでは気づかないだろう。
同じキャストとして見ていて、あ、ここが自分の個性を出せるところだな、と分かる。
また、ウエスタンリバー鉄道の客車の前方に乗っているキャスト(フロントコンダクター)は、出発の準備が整うと、先頭の機関車に乗ったメンテさんに向けて「オーラボー!」とかけ声を上げる。
ここが最大の見せどころだ。
オーラボーは『all aboard』、つまり全員乗車したという意味。転じて出発進行、ということだ。
このかけ声を合図に汽車のメンテさんは機関車を発進させる。機関車に引っ張られた客車がゆっくりと動き出す。
★
マークトウェイン号キャストは、出航の合図がそれに当たる。
出航の合図を受けて、操舵室キャストは鐘と汽笛を鳴らす。
鐘と汽笛を鳴らし終え、安全確認を済ませた操舵室キャストが、船着場の僕を見下ろし、敬礼する。1階エンジンルームにいるメンテキャストへ合図を送り、船はゆっくりと動き出す。
これが通常の流れだ。
テイク2、だと?
その時。
1階デッキにいた取材スタッフの中の、ディレクターらしき人が慌てて僕に言ってきた。
「あっすみません! 今の撮れなかったんで、もう一度やってもらえませんか?」
は?
僕は頭が真っ白になった。
いきなり何を言ってるんだ、この人は。
出航の合図は一度しかやらないのが原則だ。二度もやるなんてありえない。
しかし突然そんな依頼をしてきたものだから、僕は一瞬混乱して頭が真っ白になってしまった。
実はこの後も、自分のやることが残っている。船体周囲の安全確認を済ませて、外された係留ロープを1階デッキキャストから受け取らなければならない。
カメラマンが、肩に背負ったハンディカメラを僕に向けている。
自分たちが撮影するチャンスを逃したくせにもう一度やれって? 身勝手過ぎるにもほどがある。こっちはそんな要望に応えている時間はないのに。
しかしその時、非常に混乱して焦っていた僕はなぜか、
「しゅ、しゅっこう〜!」とマヌケな合図を、僕を撮影しているテレビカメラにだけ向けてやってしまった。
すでに出航の合図の鐘と汽笛が鳴っている最中に、さらに出航の合図を出すなんて、滑稽以外の何ものでもない。
ゲストからすると全然気にならないだろう。しかしマークトウェイン号の運営を知る者からすると不自然極まりない。
★
土日キャストのH田くんが、あとで僕の話を聞いて爆笑した。
「NGを出されて、テイク2をやったってわけだ」
その日一日、「テイク2」が僕のニックネームになってしまった。
オマケ:ウエスタンリバー鉄道でのダメ出し
テイク2と言えば!
その年の冬に、僕はウエスタンリバー鉄道へクロスに行くことになるのだが、その時の話。
上で説明した通り、僕が次に汽車の前方に乗るポジションになり、ちょうどオーラボーを告げるときのことだ。
駅で乗車完了し安全確認も済ませ、出発の準備が整った。
出発のかけ声を出すタイミングだ。
汽車デビューして間もない僕は気になっていたことがあった。
例のオーラボーのかけ声をどのスタイルで行こうか、と迷っていたのだ。
僕が直接教わったトレーナーのTさんは正統派で、はっきりカタカナ言葉で分かるような「オーラボー!」を告げていた。
かけ声は大きく分けると三種類くらい。
①分かりやすく発音する、②とりあえず叫ぶのでなんて言っているか分からない、③短い叫び声。
何でもいいっちゃあいいんだけど、あえて細かいところにこだわるのがキャストなんですよね。
大先輩のY川さんは超短いオラボッ!って言い方をしていて、なかなか渋くてカッコいい。それを見た僕は真似してみることにした。
前方へ向かって「ぉらぼっ!」と言ってみる。
オーバーオールを着たメンテさん(この人はマークのメンテも兼任している)がくるっと振り向いて、ムッとした顔で
「あ? 聞こえねえよ!」
と言い、いつもなら汽笛を鳴らしてくれるのだが無反応。
まさかの出発させてくれない事態に!(笑)
仕方ないので、正統派の
「オオオオラボオオオオオオーーーーッッッ!」
目一杯大声で叫んでやった。
うなずき、汽笛を鳴らすメンテさん。
汽車は発進しましたとさ。
★
また話が脱線してしまいましたね。
まあダメ出しされた、という意味でご容赦くださいませ。