現役で働くキャストの誰もが、常に突きつけられている事実。
キャストの仕事は一生の仕事ではない。
単なるバイトでありいつかは辞める日が来る、という単純な事実を。
僕もこの仕事に就いた直後は、どうせ長い期間続けることもないだろうと考えていました。だから先々のことを、ほぼ無思考のまま続けていたわけです。
一緒に入ってきた同僚たちは徐々に退職していき、やがて自分一人が残って続けていたわけだけど、いつ自分がやめるか、辞め時を探してもいました。
今回は、キャストなら誰でも逃れることのできない宿命のような現実について、ちょっとだけ語りますね。
目次
最初は単なる好奇心だけで始めた仕事だった
実を言うと、最初にキャストになった時は二十代も半ばでした。
やろうと思ったきっかけも、「就職する前に、もう少しだけ好きなことをやってやろう」と思ったから。
小説家を目指していたんだけどさっぱり芽が出ず、そろそろ考え直さなきゃ、かな(でも諦めないぞ)……という現状。
お金もないし、バイトも何をやってもつまらない。
で、昔やろうと思ってできなかったディズニーランドでのバイトが、今なら大募集しているし、ものは試しだから応募してみるか、と軽いノリで面接会場へ。
で、採用と。
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最初の3ヶ月間は早く辞めたいと考えていた。
時給が900円と安いのは承知の上で。どうせ短期間で辞めるし。
でも実際に現場へ配属されてシフトを知らされると、思ったより短時間勤務であることが判明。短い日は一日5時間ちょっととか。
長い日は8時間半くらいあるんだけど、平均するとそれこそ7時間すれすれくらいで、一月あたりの勤務日数も21〜23日。
最初の給料日は一月15〜16万円くらいにしかならず。これはまずいぞとなりました。
しかも手元の契約書を見ると、契約期間が3ヶ月とある。
参ったな、6月まで辞められないのか……と焦る。
仕方ない、あと3ヶ月の辛抱だ。それからは早く3ヶ月が過ぎないかな……とひたすら待ちわびる日々。
ところが!
早く辞めよう辞めようと思いながら続けた3ヶ月間に、心境の変化が起きたんです。
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自分でも驚くほどにできない。やれと言われたことが全然できていない。自身の能力の低さに驚かされ、同時に苛立たされたわけです。
このままではいけない、もっとできるようになってからでないと悔しくて辞められないと思ったのです。
もちろん、経験を積むほどにできることが増えていく感覚で、面白さも分かってきた。こうなると、続けることが楽しくなる。
で、3ヶ月たって、契約更新の時リードから
「更新でいいよね(続けるよね)?」と聞かれ、
「はい」とうっかり答えてしまった(笑)。
そこから始まったと言ってもいいんです。僕のキャスト人生はその時決まったわけです、
『このままじゃ終われない』と。
当初、毎月の給与が少なかった問題は、その後も解決には至らず、相変わらず少ない給与でやりくりする日々でした。
しかしそれは辞める理由としては弱く、それより自分のキャスト経験値を上げることに必死だったのもある。まあ正直言うと、もっと時給を上げてほしいとは思っていたけど。
給与面の不満がスキルアップを望む気持ちより大きくなったら、それは辞める時だな、とは考えていたのですが、幸いその機会はすぐには訪れなかったということ。
だから、この時点で不満があれば辞めていたかもしれません。
いくつもの要因が重なり合い、結果として僕の生き方を支えていたのですね。
多くのキャスト達がいつか辞める時を意識するのは、おそらく待遇面を考えた時だと思います。
一般のキャストはただのバイトですから、非常に不安定な立場にあるわけです。
社員への登用制度は超狭き門であり、現実的にはほぼ不可能
ここで対立する考え方として上げておきたい点があります。
まず社会保障面です。
今も同じ条件かは不明ですが、準社員でも社会保険に加入できます。
時代にもよりますが、オリエンタルランド社は積極的に社会保険加入を勧めていた時期もあるし、逆に制限していた時代もある。
今なら、おそらく入れるはずです。
またボーナスが、少ないものの支給されます。ただし金額は時代によって増減しますし、正社員のように年2回とはいきません。
累積勤務時間が1000時間毎に数万円を支給されていたので、お世辞にも十分とは言えません。
1000時間は、週に5日勤務すると大体7~8ヶ月かかります。
年に1~2回程度ですね。きっちり勤務すると、年間勤務時間は約1800時間でしたので。
なので、給与面で不満があったりこのままでは人生設計に不安だという方は退職することになるでしょう。
結婚したとか家族ができたとか、ですね。
幸か不幸か僕はそうならなかったので続けられたとも言えます(笑)
もししていたら? もっと早く辞めたかもしれませんね。
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キャストの仕事に慣れてくると考えるのが、
「社員にはなれるの?」
ですかね。
オリエンタルランド社は、準社員キャストに対して正社員登用を行なっているか?
答えは「ほぼない」と言っていいでしょう。
ほぼというのは、完全にないわけではないという意味。
僕が現役だった時に、正社員になれる制度があったのはごく短期間で、辞める2~3年前くらいです。2000年代前半ごろ。
しかも条件が非常に厳しい。普通の人にはほぼ不可能と断言できます。
僕が入る前(1990年以前)には正社員登用制度があったそうです。が、やがてなくなってしまったそうで。
その理由は、正社員になった途端、別の部署(今までとは全然違う職種)へ異動させられることがよくあったそうです。それまでオンステージで勤務していたのに、突然裏方へ回されてしまう。で、つまらないからすぐ辞めてしまう。
定着率が低いため、やがて登用制度はなくなってしまったそうです。
僕がキャストになった当時は、リードはみんな正社員だったんです。
そのほとんどの人達が最初はバイトで入り、途中から社員になったと聞きました。
TDLオープン当時はまだテーマパーク運営が成功するかどうか分からない時代でしたから、正社員に昇格するのもずっと簡単だったのでしょう。
今後、社員登用制度が変革してもっと条件がよくなる可能性もありますが、僕が見てきた社員への道は恐ろしく狭き門であり、正社員になれる割合は、数百名に1人程度でした。
どれだけ優秀ならいいんだよ、と突っ込みたくなるほど厳しい。
そんな優秀ならどこへ行っても大歓迎されるくらい素晴らしい人格者じゃないと、という無理ゲー状態。
そこに期待するなど、到底ありえないです。
余談ですが、契約社員制度もあります。
一年中募集しているので求人情報を確認していただきたいのですが、笑ってしまうほど条件が劣悪です。本気でパーク運営を支える人材を確保したいと考えてるの?そんなに無能な人を集めたいの?って真顔で聞きたいです。いや、冗談じゃなく。
月給18〜19万円って。コンビニバイト以下ですか……。
(公平に言うと、賞与に関しては少しだけ条件がいいみたいです)
おっ、気になって調べてみると、現在は待遇が向上していますね。
昔とはずいぶん条件がよくなっています。しかも正社員前提での募集をしているようです。
管理職候補としての採用ですので、元々現役で働いている人が昇格して社員になれるかは……内部の方が詳しいでしょう。
僕の意見は参考にしないで下さい。
あくまで「昔はそうだった」ということです。
収入や保障が安定すればそれでいいのか?という疑問は永久に消えない
人生設計を考えると、このままバイト生活を続けるのは不安定だと。ではどうするか。
二つの選択肢があります。
一つ目は、退職し、新たな安定した職場を探すこと。
いわゆる就職です。通常のキャスト経験者は大体この道を目指します。仕事に飽きたか、またはつまらなくやったら辞める。
二つ目は、今のまま続ける。
安定した社員の仕事など見つかる可能性は低い。だったらしばらく不安定であってもやりがいのある仕事を続ける方が精神的に安定できる。
中途半端にブラック企業に入って神経をすり減らして消耗する仕事を続けて、社会的地位も高く、収入も(可能なら)得られる人生を歩むか。
悩みどころですね。
いや、そこそこ条件のいい会社へ就職できるならそれもいいかもしれません。
我慢強い人は、厳しい労働環境に身を投げうち「立派な」人になればいい。
僕は17歳くらいから小説家を目指していたんですが、そういう夢を見る人は、たいてい就職なんて馬鹿馬鹿しい、と考えているわけです(笑)。
なので人生設計を、いい会社に就職することに注目して努力している方とは、根本的に目指す道が違っていました。
特に目指す夢もなく現実的に生きる人は、就職して会社勤めをする方向へ進むでしょう。
それがデファクトスタンダードと思われている人達は、当然キャスト職を、
「異なる方向を向いた船」だと考え、進む道を踏み誤った人達だと考えていることでしょう。
人それぞれだと思います。
結論は「やりたかったらやればいい」
失われた30年の入口にいた当時の僕らと時代が違いますので、単純比較は難しいですね。
今は就職したからと言って安定が約束されているわけでもないし、どの業界も熾烈な競争がありリストラだってあるかも。
確実な安定などあり得ないのに、それを等価交換の材料にしてやりたい事を我慢することが正しいのか。
そりゃ、超安定企業に入れたとか優秀な人材ならどこでも安定するかもですが。
誰にでも通用する判断基準ではないですね。
つまり個人個人でどう判断するか、一様ではないのです。
少なくとも僕は、最初から会社に入る事を前提にライフプランを組み立ててきた人ではないので、僕の判断は他人には通用しないと思います。
自分の信じる道と、世間一般の価値観とが拮抗する中を、日々闘いながらやっていくしかないと思います。
考えてもみてください、自分の意思とは異なる選択をして上手くいかなかったらどうしますか?
アドバイスした人を恨みますか?
「とりあえず就職しなよ」は一見親切な助言ですが、成功するか否かは分かりません。
アドバイスした人も責任を持てないんですよね。とりあえずこう言っておけば無難だろうという一般的意見に過ぎません。
所詮、他人事ですから。
それが自分の進む道に対しての責任の取り方です。
続けるか続けないかは常に比較して検討しながら突き進むしかないのです。
キャリアにこだわる人は、元々キャスト職を学生時代に限定して卒業と同時に退職するでしょうし、学生でなければそもそも最初からやろうとしないでしょう。
つまりぼくの結論は、「やりたかったらやればいい」です。
他人にとやかく言われる筋合いのことではなく、自分でしっかり考えて答えを出して、日々を楽しめばよいと思います。
周囲を説得しないと好きな仕事ができない方は、説得するか喧嘩して飛び出すしかなさそうですね。
あるいは期間限定で、1年とか2年に限ってやらせてもらうのもありです。
やって行くうちに面白くなってもっと続けたくなったら、家族に期間延長を願い出る。
どうしてもキャストになりたくて入ってきた人は強いですよ。
やっぱり楽しんで仕事しているし。
充実している人は頑張ります。
最も重要なことは、常に考えながら続けることかな。
今の自分は正しいだろうか?このまま続けていていいのか、と。疑問が大きくなって来たらさらに深く検討して、動くか(辞めるか)を決断すればいいのだと思います。
無思考で「これでいいんだ」と安易に就職して、後悔ばかりの毎日を送ることがないように。
主婦などで将来の心配をしなくていいなら別ですがね。
(…今時、主婦だからと言って安心できない気もしますが)
ただ、一生の仕事かと言うと違うような気がします。
僕も最後の方は、キャストとしての自分の役目が終わりに近づいていると言う感覚が日増しに明瞭になって来ましたので、退職へ進んだ感じでした。
これが、僕の最終的に見つけた答えです。