【舞浜戦記・執筆方針序説】

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みなさんこんにちは!

舞浜逗留亭へようこそ。
私は舞浜戦記の執筆者、あっくんさんです。
(マークトウェイン号船内のアナウンス風)

2020年現在、僕がキャストを辞めてからもう14年以上が経過しました。僕がキャストをやっていた期間とほぼ同じくらいの期間が過ぎ去ったことになります。僕にとって舞浜パークはずいぶん昔の話になってしまいました。

ところで、僕がキャスト時代に知り得た、オリエンタルランド社で見聞きした事項に関して、あからさまに語るのは違反ではないかという意見や感想を持たれる方も少なくないのではないでしょうか。

なので改めてこの機会に、このコラムに関する僕なりの考え方をご説明しておきたいと思います。

キャストは退職時に、勤務中に知り得た情報に関しては退職後に口外しないようにという誓約書に署名を行います。これはオリエンタルランド社の利益を損なう恐れのある行為を禁止するものです。なので、司法判断を仰げばほぼ間違いなく違法行為となるでしょう。

それなのになぜ語るのか。
一つには、誰もやったことがないからです。(口外したことのある人はいるでしょうが、問題になったことがないか、同社が内々に処理したと考えるのが自然ですね)

もう一つには、何を持って利益相反となるか、明確にされていないからです。
社内のことを他人に漏らせば全て利益を損なうのか?同社には今も昔も、社外の関係者が大勢出入りしています。彼らは同社内の業務上の情報を知りつつも口外はしないよう、僕らと同様に確約させられているはずです。おそらくどの外部業者も口が堅いのでしょう。あるいは問題になるほどではなかったのかも。

要するに、同社内で行われている関係者の言動や業務行為、情報、知識、施設や機械装置、一般的会話に出てくる何らかの、同社が費用を投入して蓄積した全ての資産や情報を、非関係者に紹介する一連の行為がどう利益を損なうのか、誰も説明したことがないからです。

口外しないように誓約書に署名された時にも、どのような利益の損害が想定されるかは一切説明されませんでした。つまり、実際に利益が損なわれたと発覚してからそう断定しましょうという、理由のあと付け行為に他ならないのです。

もちろん同社としては、問題が起こってからでは遅いので、退職者には秘密は漏らさないでね、と誓約してもらうのはごく当然の行為です。業務上知り得た情報は好きにバラしていいよ、などとは言えるはずもありません。

ナイショ話をする女性

さて、話を変えます。

どの会社にも、様々な秘密があります。
一般的な例を挙げると、たとえば国内のメーカー勤務の技術者が自分の待遇に不満を持っていたとします。自分は社のために一生懸命技術開発をして高品質の家電製品を作ってきたのに、会社は全然報いてくれない。昇給もここ数年ゼロです。
そこへ、外国の新興メーカーが転職の話を持ちかけてきます。あちらの会社があなたの能力を高評価しています。給与は今の3倍をお約束しますよ、と。

あなたは悩みます。今までお世話になったのは事実だし、自社のブランドも好きだ。しかし今のままでは自分の給与は定年まで変わらないだろう。それならいっそ転職して自分を評価してくれる会社へ行った方がいいのでは?
悩んだ末、話に乗ることを決断します。新しい職場では、自分のアイデアがどんどん採用されて新製品がバカ売れします。給与も激増。外国企業なのでいつ首を切られるかといった不安要素はあるものの、自分には売れる商品を開発し続ける自信がある。
ただ、そのおかげで日本のメーカーが衰退し窮地に立たされていることが、ちょっとだけ気がかりではあるけども。
それもこれも、自分を評価してくれない元の企業に原因がある。もし実績に基づいて給与で評価してくれれば他社に移るようなことはなかったんだから、というわけです。

技術者なら、おそらく同業他社に転職した場合、元の会社で開発したノウハウを向こう3年間は秘密保持しろ、とか誓約させられるでしょう。多額の資金を投入して最先端の技術開発を担当していた本人が、ライバル他社に転職してそのまま最先端の技術をそっくり真似されたら、大損害です。そこで秘密保持の誓約をするのは当然のことと言えます。

真面目な人なら、そこは技術者の矜持とでも言いますか、自分を成長させてくれた社への恩義で多少は遠慮しつつ他社で実績を積んでいくのでしょう。(現実はそんなに甘い世界ではないのでいちいち約束なんか守ってられないよ、などの意見はどうでもいいです)

バリバリの技術者なら秘密保持に関して非常にデリケートな領域に関わる重大事項ですね。少しくらいいいじゃないか、なんて言ってられないのでしょう。血みどろの闘争が展開されることは確実です。

話を転じて、サービス・レジャー産業はどうでしょう?
もちろん、社外に知らされては困る要素は、技術開発周りほどではないにしろ、多少はあるわけです。最終的にお客様へ知れ渡る内容であったとしても、そこで行われていることは様々なアイデア、試行錯誤をへてオンステージに持ち込まれてゲストを楽しませる「作品」として提供されるものだからです。

これは知られると、損害が出る可能性があります。たとえばライバル社が当社に先駆けて新製品や新イベント等を打ち出そうという場合、業界トップ企業の活動内容を先に知り得ておけば、そこから一歩先んじて新しいアイデアを顧客に提供できる可能性があります。

新製品の内容、というばかりではなく、社内で使われているツールやアイテム、効率的に業務を行うためのノウハウ等。それら全てが社の資産であり、他社へ漏洩することがあれば金額の多寡を問わず、「損害」と言えるかもしれないのです。

技術的な革新性が結実したハードや人的資産・ノウハウは、同社の貴重な資産です。新しいアイデアでお客様を魅了する、多額の費用をかけた演出で観客を驚かせる。大掛かりな舞台装置を作って毎日高レベルなエンターテイメントを提供する。

それと、ちょっとした小ネタ的アイデアもあるでしょう。
こまごまとした、決して派手ではないものの、気づいた人に憎いねと思わせるセンスのいい工夫などです。そんなにお金をかけているわけではないし、それがないからといってテーマパークはつまらないね、と思うこともないような、ささやかなアイデアです。

秘密の逢瀬

たとえばTDRだと、バースデーシールというアイテムがあります。

あれは、元々はスプラッシュのリードをやっていた人物が発案したものです。上司から、ゲストサービスのきっかけになるようなものを作れ、と言われて、いわば「苦肉の策」的に作成して配布してみたところ、予想に反して大好評(笑)となってしまい、追加注文をかけて様々なキャストに渡して、ゲストとの会話のきっかけになればと、どんどん広がっていって、やがて両パークで配布するまでに成長した、元々は「小ネタ」から出発したアイデアです。

発案者は社員だったし、多少は予算をかけて投入したものではありますが、決して「来園者を増やす」のが目的ではありません。キャストが、ゲストとどうお話をするか。ゲストから質問されて会話するのではなく、自然に話しかけるきっかけとして使えれば、もっとゲストとキャストが触れ合える機会が増えるのでは、と始めたものなのです。
でも、予算をかけないで工夫することって、けっこうたくさんあるんですよね。

それはあなただって自分の職場で、ちょっとした工夫をしていることってあると思います。それと同じです。
職場が味気ないと思ったら、花をいけてあげるとか。書類が見やすいようにきれいに向きを揃えて並べるとか。何でもいいんです。

でもそういう工夫って、ほとんど給与に反映されないですよね。もちろんあの人は「気が利く社員」だな、と評価されて昇給に結びつくことはあるでしょう。でも決して昇給したから気を利かせるようにしたわけではないでしょう。
そして小さな工夫のほとんどは、給与には反映されないものです、残念ながら。

キャストだって、ごく普通の人がちょっとだけ工夫してゲストに分かりやすいように伝えるよう、言葉遣いを工夫したりしています。少しでもお客様に喜んでもらうために、ほんのちょっとした工夫なんて、けっこうみんなやっていると思います。

そういうちょっとした工夫の積み重ねが、テーマパークを形作っているのです。多額の予算をかけて先進的な舞台装置や演出機器を使うだけが、テーマパークではありません。いや、舞台装置を製作した業者や社の技術担当だって、細部に渡って細かな工夫を積み重ねていると思います。(ほとんど給与に反映されないうちから、自ら進んで行っています)

ところで、会社が言うところの「秘密」とはどこまでを言うのでしょうか。
機械装置の構造とか物質的な特許やアイデアのこと? 外観の描写をして(四角い箱型でアームが2本突き出しています、等)それが社外に知られたら損害を与える? 機械装置の製造マニュアルや運営マニュアルのデータもしくは物理的紙資料が流出して他社に知られたら損害? 関係者の発言やお喋りの中に含まれる単語や行動を意味する言葉などを非関係者に話して聞かせたら損害? ちょっとした工夫を利かせた職務上のほんのわずかな便利さや気の利いた所作を含めた知識が知られたら社に損害を与える?

秘密の話を始める女性

先の話、メーカー技術者の方が、もし自分の実績を振り返ってみたら、その多くの部分が元の会社から提供された多額の資金をベースにして、そこに自分のいくつものアイデアと細かな工夫を投入していった「最終的な完成作品」こそが実績につながるのではないでしょうか。それを、自分の実績として他社へ評価してもらう。

会社は自社内で作成されたあらゆる業務上の情報を総括して「資産」であり、それらを社外に漏らすことが損害になると言っています。その中の多くは、給与に反映されない工夫の積み重ねであるにも関わらず、です。

職場にお花を飾ったおかげで私の給与が○○円増額されました、とか書類をきれいに並べたおかげで○○円ボーナスをもらえました、という人がいたら教えて下さい。ちなみにTDRでは、そんなアイデアに給与増額をしてくれるような制度はありませんでした。
(ただし、アイデア募集の企画は時々行われていて、その副賞に様々な商品や景品が用意されていたことはあります。受賞者だけが得られるものですが……)

ごく普通のキャストが日々の勤務の中で行っているアイデアや工夫、評価にほぼつながらない努力やヒント提供は、自分の実績にはならないけど、同社には「提供」されてパーク運営に反映されています。それらも全部含めて同社は「情報は全て会社の資産財産であり外部へ漏らすことを禁ずる」と言っているのです。

腑に落ちない部分がないでしょうか。それらの工夫はほとんど給与に反映されることはないけど、会社の財産だから勝手に持ち去るなと言っているのです。
スマイル0円は給与も0円だよ、でも勝手にスマイルを持ち去るな、と。(持ち去ってもマクドナルド社は損害を受けないでしょうが)

僕はスマイルにもお金を払ってくれ、と言うつもりはありません。それは金銭的価値に反映されない要素であり、それらの価値を計算すること自体がナンセンスです。
しかし、何でもかんでも無思考に全てが会社の資産だ、社が蓄積したノウハウだ、と断定するのは、その中身について何も考えていないのと同様と言いたいのです。

それらを全て十把一絡げにせず、何が秘密で何が秘密でないのか、何が損害を与えて何が利益になるのか、今一度きちんと再思考を行って、情報整理をすべきなのでは、と考えて書かれたのが「舞浜戦記」なのです。

長くなりましたが、この言葉をもって締めくくらせていただきます。

「屁のような意見には、屁理屈がお似合いだ」

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あっくんさん

あっくんさん

元TDLにてアトラクションキャスト勤務を経験した十数年間を回想する場。このブログはそんな僕の、やすらぎの郷でございます(笑)。

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