逃げるは恥だが役に立つ・最終回

 

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ようやく、見た。

『逃げるは恥だが役に立つ』最終回。

連ドラを見通すことの難しさを再認識する

最近連ドラを第1話から最終回まで見通す機会がめっきり減ってしまった。

理由は、面白くないから、ではない(と信じたいがどうだろう)。

自分の脚本を書く時間に費やしていたため…と言い訳をしているが、ある意味目を引く企画がないから、かな。

それでも今クール(2016年10‐12月期)の連ドラ作品の中でひときわ目を引いたのが今作である。恋ダンスなどという俗っぽい、今どき珍しくない話題作り感満々の企画がヒットしたのもあり、なかなかの高視聴率をマークし初回から一度も視聴率を落とすことなく最終回を迎えるという、実に幸運な締めくくりを果たした作品である。制作陣もさぞかし喜んでおられることでしょう。

そしてこの作品のような右肩上がりのヒット作こそがドラマの視聴習慣を定着させる(要するに、ドラマを見る人を増やす)カギを握っている。

《作品紹介》

主人公・森山みくりは就職に失敗し、派遣の仕事を切られ途方に暮れる。そこへ突如、両親が田舎に引っ越しを宣言。行き場を失い絶体絶命のみくりに、父が家事代行サービスの仕事を半ば強引に任されて、やって来たのが津崎平匡の家であった…

と、筋書きは公式サイトを見ていただければよろしいかと。

http://www.tbs.co.jp/NIGEHAJI_tbs/story/story01.html

さて。

すでに一回見ているが、改めて再度最終回を見返してみる。

連ドラ最終回は、広げた風呂敷を畳む回とも言える。さて、物語の風呂敷の畳み方は、

①美しく畳む

②正確に畳む

③素早く畳む

④畳まない

いくつかの選択肢がある。

この作品は意外にも、美しく畳む選択をしたようだ。

さんざん広げまくった今作のエピソードだが、最終回でいかに回収したか。

みくりと平匡の恋の行方は? ラスト2・第10話、突然のプロポーズに驚き戸惑うみくりは?

「それは好きの搾取です!」

と言われシーンはぶつ切り状態、唖然とする平匡、一体どうなっちゃうんだろうか?

みくりの叔母、百合と風見の恋は?イケメン風見が本気で恋してしまった百合は果たしてどう決断するのか…。平匡のリストラ事件は?

こんな時は、主人公がどっちに走っていったのか、見届けよう。

実はみくりの最終目的は、就職の成功である。

 

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主人公森山みくりの人物造形

第1話。

みくりは派遣の仕事を切られてしまう。「小賢しい」と言う理由で。

よかれと思って口出ししたり、生意気な口を利いてしまう。

(ただし第1話では、若い子の方がいいという理由だったような…。なので直接上司が小賢しい、とは言っていなかった。小賢しい設定は後付けの理由として設定されたようですね)

そのみくりが、仕事に困ってしまい、さらに両親が引っ越すと宣言し追い詰められる。主人公が追い詰められるのは、行動を開始するきっかけになるのです。

そこから物語は始まる。

ストーリーの設定上は、仕事としての契約結婚を始めるみくりと平匡。

やがてお互いに相手を意識し、恋愛感情を育てていく二人。

ただし、みくりにとって恋愛(結婚)の成功は実は二の次で、仕事における成功にこそみくりの行動理由が隠れている。

そもそも仕事の失敗も、恋愛の失敗も、彼女の小賢しい性格が原因だった。

苦々しい過去の失敗の原因の小賢しさを平匡が完全否定し、美しい終局を引き寄せた。

序盤は割りとゆるゆる始まったように感じていたが、最終回から初回へ逆に辿っていけば、かなり計算した流れでエンディングへ導かれていったのだなと分かり感心する。回を重ねるごとに「小賢しい」がキーワードとして浮上し、それに伴いみくりの失敗の原因が明らかになり、主人公としての魅力が増していった。

最終回はみくりの「モヤモヤする」の一言から始まり、初回のスタート地点に引き戻されたような印象だ。

最終回、青空市での、平匡の「僕は小賢しいなんて思っていませんよ」の発言が、彼女の過去の失敗をことごとく打ち砕いてくれたあたりが全体のクライマックスだ。

一気にみくりが抱いていたモヤモヤが、すっと晴れていった瞬間だろう。

と言っても、主人公を含め人物達の問題は、実は完全には解決していない。

このドラマは、現代の日本の女性が遭遇する、仕事や恋愛における大きな壁の存在を提示している。それは主人公が行動したくらいでは解決しませんよとさりげなく問題提起している。

そこに、作者のメッセージが物語と並走して随所に刻み込まれているのだ。

思えば、原作者も脚本家も女性だ。

みくりのモヤモヤは、全日本人女性を代表するモヤモヤだ。

連続ドラマは結末を迎えねばならないが、この問題は全く解決していない。

だから、みくりと平匡のストーリーはまだまだ終わることがないのだ。

主人公と一緒に走り抜けた我々視聴者は、逃げながらも問題にぶち当たり壁を乗り越える責務をいつの間にか負わされてしまったのである。

さらに、もう一つ。

逃げ恥に隠し味として仕込まれた社会的メッセージ

このドラマには、最終回において突然現れた要素がいくつもある。

藤井隆とリアル嫁の伝統的夫婦。百合と風見の年の差カップル。沼田と梅原(百合の部下)のゲイカップル。

唐突感のある設定。正直戸惑いを感じた方も少なくないのでは。

でもここに、作者が込めたメッセージを読み取ることができる。

女性として働くにも、永久就職の道を選んで専業主婦になるのも、どちらにしても厳しい今の日本の女性を取り巻く事情。

だからこその、唐突な設定なのだ。

今の世の中には、様々な事情を抱えた人々がいる。女性たちも、それぞれに事情があって仕事を選んだり結婚を決意したりしている。どちらが正解かなんて、そんな単純な話じゃない。どちらを選んでも、険しい道が待っている。

このドラマに登場する夫婦も、様々だ。

みくりの両親。

平匡の両親。

みくりの兄夫婦。

みくりの親友のやっさん(シングルマザー)。

上の世代はみな、伝統的な結婚に縛られている。

同世代のやっさんは、結婚に失敗した。

そして、みくり本人。

全く明るい未来を感じさせてくれない設定だ。コメディじゃなかったらどうにもやりきれない。一枚薄皮を剥げば、こんなにも生々しい現実が大口を開けて待ち受けている。

だから。作者は、訴えたかったのだ。

結婚も仕事も、そんな簡単じゃないんですよ、と。

でも暗いばっかりじゃない。それが上記の様々なカップルだ。

伝統的な夫婦を縦糸に、新しく誕生したカップルを横糸に。そう考えると、希望もまた生まれているってことを指し示している。

やっさんのシングルマザーも含め、多様性を象徴するそれらの要素が、新しい時代の到来と古い伝統との対決を示唆している。

まあ、基本この作品はコメディだし、肩の力を抜いて、何度も逃げつつ知恵を身に付け体力がついたら対決しましょう、そして問題が解決できるよう役立てましょうというメッセージを、底流に見ることができる。それこそが、作者が隠し味として練り込んだパン生地のメッセージであり、社会問題というイースト菌が発酵し、大きく膨らんでふんわりと美味をたたえた絶品の魅力なのだろう。

余談。

最終回、平匡家の浴室でみくりがパソコン作業をする場面がある。あれは映画『トランボ』のオマージュだよね。映画の中で主人公トランボが浴室にタイプライターを持ち込んで脚本を執筆するシーンがある。ガッキーは服を着ていたけど(トランボは裸で執筆する)あれはまさにトランボスタイルだ。

脚本の野木さん、やるなぁ。

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2018年1月追記・改めて逃げ恥の効能を知る

年末年始に「逃げ恥」全話一挙再放送がありました。自分は見ていません。今さら逃げ恥でもない、と思うし初回放送を録画しているので見る必要もないと。

Twitterなどで感想を見ると、カットされたシーンがいくつもあったみたいですね。

テレビ局としては、Blu-ray&DVDのセールスに影響してくるので、全カット完全放送は二度とやらないでしょうね。

これもビジネスですから。とは言え完全版を見たけりゃボックスを買え、というのは酷ですよね。

しかしSNSを見ていると、テレビ電波に乗せて放送することによって視聴者の一体感を生むというのは、テレビ局としても決して損失ばかりではないのでは、と感じます。

すでに内容を知っている視聴者が、過去の作品を巡ってあれこれと思い出話に花を咲かせるというのは、映画は映画館で見た方が楽しい、テレビ番組もまたしかり、という体験型エンタメの魅力の可能性を指し示しているのでは、と思います。

昔は人気テレビドラマを見た翌日は、その内容を巡ってわいわい語り合う機会を作ってくれました。

SNS時代にも、同じ楽しみをリアルタイムではありますが、人々は楽しんでいますよ、確実に。

最初に見た時はこう感じていたけど、見返してみると、実はこうだったんだと新たな発見がある。他人の解釈や感じ方の相違点に気づいたり。そこから価値観の違いを見せられたりするものです。

やはりテレビドラマは、今の時代にも、とても大きな可能性を秘めているのですね。

 

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