【舞浜戦記第2章】徹底的に失われた、僕らの信頼:スプラッシュ・マウンテン041

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舞浜戦記041
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第一期暗黒時代のはじまり

長く同じ職場で勤務し続けると、はたから見ても分からない浮き沈みを体験することになる。数年単位で、職場の空気やモチベーション、雰囲気、人間関係等の環境が悪化したり改善したりを繰り返す。

スプラッシュ・マウンテンが始まって最初の1〜3年目くらいの期間は、僕にとって「第一期暗黒時代」だと感じていた。

暗黒というと大げさだが、組織としての雰囲気や空気、成長意欲が最も低い低迷期だ。そう感じたのにはいくつか理由があるが、その最大の理由は、僕ら一般キャストがリード達から全く信頼されていなかった点にある。

信頼がない、というと当時のキャスト達に否定されそうだ。決して職場内が険悪な雰囲気だったわけではない。個人的には仕事を楽しんでいたし和気藹々とした雰囲気もあった。

表面上は、決して意思の疎通ができていないわけではなかった。

では、信用されていなかったというのはどんな点でだろうか。

僕らは徹底的に、信頼されていなかった

僕がスプラッシュに来てから戸惑ったことの最たるものが、対応手順についてだ。どのアトラクションでも行う共通の対応なのに、職場(ロケーション)によって大きく異なることがある。

前回触れた、チケット(パスポート)を紛失した場合がその際たるものだ。

マークトウェイン号では、ただオフィスへ探してもらうよう依頼し、見つかればすぐ返却。その間、リード(責任者)が間に入ることはない。ただリードがオフィスにいる確率が高いので、対応を任せることは多かったが。

ところが、この時代のスプラッシュでの対応は、どのポジションであっても自分は何もせず、「リードを呼び、来るまで待って対応を依頼する」だった。
(その後、変更されるのだが)

いちいち責任者が来るのを待つのだ。その間、ゲストはその場で待たされる。並んでいる方も同様。
チケット確認の場所は乗り場まであともう少しの位置だが、そこでチケットを紛失したゲストは列から外され、リードが来るまで待たされる。当然、後から並んだ人達に追い越されることになる。(その後、列を止めて後続ゲストを待たせるように変更された)

責任者にわざわざ来てもらうのも無駄だが、紛失したゲストもいたたまれないだろう。せっかく先に並んだのに、チケットを紛失したせいで乗るのが遅れるのだから。それって、(チケットを無くしたあなたが悪いんですよ)と言わんばかり。まるで罰を与えているようだ。

もちろん紛失したのは当人の落ち度だけど、それを理由に、ゲストに少々不憫な思いをさせることになるのは、果たして正しい行いなのだろうか?

キャストにとってみても、そんな(簡単な)ことくらいで責任者を呼ぶなんてあまりにも無駄だと思う。リードだって暇じゃないし他にやることがたくさんある。(残業してまで雑多な処理を済ませているのを日々見ていたから、暇ではなかったのは確実だ)

今のはほんの一例。
他にもいくつもの手順が、まるでお前達は勝手に判断するな、肝心な対応は俺達がやる、と言わんばかりの流れで統一されていた。

なぜか。
簡単に言うと、リード達がキャストを信用できなかったことの現れだ。

最初からこんな手順だったわけではない。少なくともオープン当初は異なっていた(というよりキャストによって対応に差があった)。

こうなった理由は、チケット紛失対応で致命的な失敗をしたキャストがいて、ゲストに迷惑をかけてしまったから、と記憶している。再発を防ぐためには「自分達リードがやる」しかないと判断したわけだ。

あの時代、責任者は僕らキャストをとことん信用していなかった。それが僕にとっては、とにかく気に入らなかった。

もちろん、仕方がなかった面もある。まだスプラッシュはオープンから1〜2年目を迎えたばかりで、人気は絶頂で衰える気配は全くなかった。

ゲストの期待が極度に集中した中で運営を行なっていると、小さな失敗も大事になる。些細なミスも大きなクレームに発展する。その中で一つ一つのクレームを徹底的に回避するには、こうするしかなかったのだ。

キャストを信頼して任せて、結果失敗するより、イレギュラーな対応をさせないようにし、仕事を取り上げた方がずっとリスクを減らせる。
だから自然とキャストに余計な動きをさせないような流れができ上がってしまったわけだ。

他のアトラクションの対応手順を知っているからこそ、過剰な失敗回避策を取っていることがひどく滑稽に見える。こんなやり方では人は成長しないとすぐ気付くのだが、先々の人材育成を気にする余裕は、まだまだなかったのだ。
自主的な動きを可能な限り封印するやり方。それが僕は気に入らなかった。
いや、蔑んでいた。

このアトラクションでは、キャストは信頼すべき相手ではない。お前らはただの機械になりきって精密に動け、と指示されているようだ。
僕らはリードの小間使いとして動け、というわけか。
こんなくだらないやり方を、疑問を持たずにやり続けろって言うのか?それを、何の疑いもなくやれと?

僕らはあんたらの奴隷じゃない。

そう、口まで出かかっていた。ギリギリで口をつぐんで、日々黙々と作業を続けていた。
それが日常と化していた時代だったのだ。

逆に、他のアトラクションから異動して来た人、一時的にクロスでやって来て一緒に勤務した人達は、驚いたと思う。僕らがリードの操り人形状態になっている事実を、どう受け止めたんだろうか。こんな感想を持ったはずだ。

「この人達(僕らのこと)って、こんなに”使えない”んだ」

まだ異動してきて間もない人から、紛失対応について質問されたことがある。
「え、リードを呼ぶんですか」
はい。僕らは勝手に対応できないんです。
はい。僕らは自主的に動けないんです。
そうとしか、答えられなかった。

「なんでこんなことになってんだよ!」

ふと、思い出したことがある。

シゲ坊がスプラッシュへやって来た後で、このチケット紛失ゲストの対応について、ちょっとだけ話したことがあった。

「なんで、こんなんなってんだよ」
「うーん、仕方ないね」
「ったく…」
「しょうがないだろ(リード達が決めたんだからさ)」

それっきり、彼は黙ってしまった。

あの頃の記憶を掘り起こしてみると、思うことがある。
あの時、彼はこう言いたかったんではないか。

なんでこんな下らない手順を許してるんだ?お前はそれでいいと思ってんのかよ。
なんでお前、ただのキャストに収まって満足してんだよ。マークにいた時はトレーナー候補だったじゃねえか。なんで沈んでんだよ。
お前がそこで満足してないで、リードに抵抗して、こんな手順、反対してぶっ潰せよ。否定しろよ。

今あの時に戻ったら、すまんとしか言いようがない。
不甲斐ないヤツ、使えないヤツでごめん、と。

ただ黙っているだけで、何もしなかった。現状に耐えられないほど不満だったが、それを変えようと訴えもしなかった。

ただ指をくわえて見ていることしかできなかったのだ。

(つづく)

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あっくんさん

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元TDLにてアトラクションキャスト勤務を経験した十数年間を回想する場。このブログはそんな僕の、やすらぎの郷でございます(笑)。

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