脚本家・遊川和彦氏は「過保護のカホコ」でどこを目指しているのか

 

 

こんにちは。

最近脚本の話題から離れていたので、ちょっとだけ語ります。

 

2017年・夏ドラマが続々と始まっている。

いくつもの話題作がスタートラインに立ち、次々と快調に飛ばしていっている感じだ。

この、連ドラの出揃っていく状態が好きだ。

ほとんどの作品が出揃い、中には早くも第3話が放送済みの作品もある。

その中で、いつも話題をさらっていくのが、脚本家・遊川和彦さんの作品だ。

遊川和彦氏と言えば、近年の大ヒット作「家政婦のミタ」で最高視聴率40%超を記録し、まだまだ地上波のドラマにも可能性が残っていることを証明した。その前にも「女王の教室」や、さらに昔に遡れば数え切れないほどの名作を世に送り出してきた方だ。

 

その、遊川さんの筆による日テレ連ドラが、「過保護のカホコ」である。

あらすじは公式サイトを見ていただくとして、この作品で遊川さんはどこを目指そうとしているのかをちょっと考えてみたい。

   

これは自説だが、脚本家を含めたドラマ制作者は、連ドラ作品を通じて何を表現したいのかを、テーマに乗せて訴えかける。

はっきり言って、本作で遊川さんは勝負に出たな、と確信した。

遊川さんは作品によって、思いっきり数字(視聴率)を取りに行く時と、ドラマの企画上で冒険しようとする時とに大きく二分されると思う。

数字を取りに行く時は、エンタメ志向ど真ん中で狙ってくる。僅かな隙も見せず、視聴者を揺さぶるためにあらゆる手段を講じて作り込む。

一方、エンタメからはちょっと外れるが、問題作や類似するジャンルの他の連ドラではまず企画に上がらないような異色作を繰り出してくる時がある。

少し前の「はじめまして、愛しています。」や2015年の「偽装の夫婦」はそんな異色作だったように思う。

一体なぜそんな作り方をするのだろう。

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遊川和彦さんは、連ドラ脚本家としてのキャリアを1987年にスタートさせている。

最初の作品は「オヨビでない奴!」というコメディタッチのホームドラマだ。植木等、所ジョージ、高橋良明の三世代一家を主役にしたとても楽しいハチャメチャな作品で、僕も当時熱心に見ていた。細かいエピソードは忘れたものの、とても面白かったのを覚えている。

遊川さんの作品をここでいちいち挙げているときりがない、というか思い出話になって収集がつかないのでこれくらいで留めておくが、強いエンタメ志向の脚本家だ。

長いキャリアの中で、何本もヒット作を生み出してきた。

おそらく遊川さんの中では、いわゆるヒット作を作ることは、たやすいとは言わないまでも、決して不可能なことではないはずだ。つまり意識してヒット作を出そうと思えばいつでも出せるのだろう。

だが。

そうやってヒット作を繰り出して、果たして満足感を得られるだろうか。

エンタメ職人に徹すればできないこともないが、ヒット作ばかりを量産していくと、逆にやりがいは目減りするのではないか。

毎年毎年連ドラは次々に作られる。ほとんどの作品は放送が終わると人々の記憶から徐々に消えていく運命にある。ヒット作であってもそうなのだから、低迷した作品は言うに及ばずだ。

ものを作る人は誰しも、自分の作った作品が末永く人々の記憶に残って欲しいと願うはずだ。

だが商業娯楽作は、消費財のごとく生まれては消えていく運命にある。

その中で、人々の記憶に残る作品はどれだけ生まれるのだろうか。また、そんな作品を作るにはどうすればよいのか。

一つ言えるのは、記憶に残る作品は、その時代を作ってきた作品だということだ。

社会現象になるほどのヒット作は、人々の記憶に残る名作に昇格できる。

そんな作品を作れたら、作者としてこの上なく幸せなことではないだろうか。

 

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遊川さんがどう考えているかは本人に聞かないと分からないが、単なるヒット作を作るだけではもはや虚しいのかもしれない。

だって、ヒット作であっても次々に連発すれば、印象も薄れてしまうだろう。ただ面白かった、という作品は、結局人々の記憶からあっけなく消え去っていく。

ならば。

たとえヒットしなかったと言えども、人々の印象に残るような異色作を世に放ってみたい。そうは思わないだろうか。

長いキャリアとヒット作を数々生み出してきた遊川さんであれば、そんな冒険をあえて犯してみることも可能だろう。

もちろん面白くないドラマを作るつもりはない。異色作でありながら、今まで見たことのないような独特の面白さを追求した作品を作りたい。

そして従来に見られなかったような独自のジャンルを掘り当てることができたら。新たな金脈を発見できたら実に名誉なことではないか。

常に冒険する気持ちを忘れずにいたい。そう思っても不思議ではない。

そんな気持ちを持っていたのであれば、「はじめまして、愛しています。」や「偽装の夫婦」など、正直言って微妙な作品(個人的感想ですスミマセン)を企画した意図も分からないでもない。

もしかしたらド直球を狙っていたのに、あの作品だったのかもしれない。

 

でも、いつでもものを作る人は、高い理想と意欲を持って制作に臨むのではないか。

ただ、冒険と一言で言っても、様々な挑み方がある。

思いっきり奇妙なドラマを作る。映像が普通じゃない、登場人物設定も普通じゃない、セリフも奇妙、主人公の属性、ありとあらゆる要素が違和感にまみれた作品。万人に受ける事を諦め、一部の熱狂的ファンを生み出す作品がこれだ。

一方、正統派エンタメとしての異色作もある。これは最高に難易度が高い。ベースは正統派だが王道から外れた作品だ。一見マニアック作品にも見えるがが、目指しているのは超娯楽志向の作品だ。

ところがこれが非常に難しい。異色作でありながら同時に正統派でもあるなんて、矛盾そのものだ。やろうとして簡単にできるなら誰もがやっている。世間に溢れかえった趣向を、誰が異色と呼ぶだろうか。

今まで幾多の脚本家が書こうとしてできなかったから、異色作なのだ。今まで誰も成し得なかったから、異色なのだ。それを、今あえて試みようとするなど、無謀以外の何者でもない。

どの方向性を志向するか、作り手のさじ加減が決め手になる。大胆な表現方法、繊細な微調整を塗り重ねて、全体としてのカラーを決めていく。

長年の経験を持ってしないと大失敗に終わるリスクを抱えている。

 

近年の遊川さんは、いわゆる「愛」をテーマにして作品作りをしているように思う。

「愛」と大きく構えて作ると、恐ろしく陳腐になる危険性を孕んでいるが、そこをあえて逃げずに挑戦している。

自分が脚本を書いていて難しいなと感じるところに、あるテーマを持たせて表現しようとすると、技量の稚拙さゆえか、『とてもインチキ臭く』なってしまうか、または全然まともに表現できていない『薄味』になってしまう。

「愛」をテーマに書いていくと、非常にインチキな印象しか感じない愛になってしまったり、薄くて全然感動に到達しない愛に成り下がってしまうのだ。

もちろんベタな表現方法を使えば、それなりの完成度は実現できる。

だが、どこかで見たような作品になってしまい、個性が発揮できない。

感動は、作者が完璧にコントロールしなければならない。

だがどう頑張っても全然違った方向へ暴走するか、逆にほとんど動かない。完全な失敗作だ。

事程左様に、ドラマをコントロールするのは難しい。

 

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   ***

さて、今作「過保護のカホコ」が狙っているテーマ。

過保護の主人公を通して、現代の日本人を投影しているのは間違いない。

このカホコが当たり前だと思っていたことが実は外の世界では非常識だった。これだけを見ると凡百の日本人論を見ているようで、一瞬だけ気恥ずかしさを覚えて明日にはすぐ忘れてしまうかもしれない。

第1話を見ると、麦野君というカホコの相手役の青年がのっけから「お前みたいな過保護が日本をダメにするんだ」と言い放つ。

うわ、最初から結論を言っちゃったよ、ですな。

これ、遊川さんの作品の中ではあまりなかった。差し当たって20世紀以前の作品は外すとして(『魔女の条件』はかなり直球勝負でしたからね)、最近はテーマを隠して主人公の感情を隠して話を進めていき、回を重ねる内に徐々に明かしていくという展開が多かった。

今回は全く違う。

カホコは、最初から自分の気持ちを真っ正直に表現し、思いっきり周囲の人々に感情をあけっぴろげにしている。

隠すどころか、じゃんじゃん見せている。

顔芸とも揶揄されるほど、高畑充希はカホコの感情を顔面で分かりやすーく表わしている。

きっと、遊川さんからきっちり指導されているに違いない。

誰が見てもカホコの気持ちが分かるような顔をして、と。

 

これは、遊川さんが本気になっている証拠だ。

初回から臆せず大上段に構えて勝負に挑んでいる証だ。

今回は、ド直球で狙って来ている。

最近数年間に見られる実験的冒険作はいったん脇に置いて、今回は大勝負に出てやろう。そんな気概を感じる。

今作も、決してエンタメの安易な王道パターンを、遊川さんは選ばないだろう。

どこかに冒険を仕掛けてくる。だがエンタメ志向を最優先に、とことん視聴者を喜ばせようと七転八倒するだろう。

そんな遊川さんの覚悟を感じたのが、この『過保護のカホコ』第1話、第2話を見ての感想だ。

 

遊川さんは2005年、向田邦子賞を受賞した際に、「俺はドラマを愛している」と言い放った。

この言葉を思い返すに、彼のドラマに対する愛は、そう簡単に描けるものではないはずだ。

ド直球のテーマとひねくれた人物達、こじれた愛情に翻弄されながらも一心に突っ走る主人公・カホコが見えてくる。

遊川さんは、勝負に打って出ているのだ。

 

本作で、遊川さんのドラマ人魂を見た。

 

 

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