なぜシナリオスクールで、回想を使うなと言われるのか?

思い出の写真たち

シナリオスクールで教わるアドバイスの一つに、「回想は出来るだけ使うな」というのがあります。

回想とは、突然主人公や他の人物の過去の出来事が始まるシーンですね。
昔体験した悲しいエピソードや、過去の栄光などを映像で見せることで、新たな情報を視聴者に提供する手法です。

なお、ほんの一瞬だけ過去にもどり、すぐ元のシーンに戻るのは、「フラッシュ」と言います。
似ていますが、別物です。

回想を入れるととても分かりやすくなった気がします。
過去の経緯などをその場で伝えれば、ああそういうことか、と理解しやすいですよね。視聴者の理解を深めるためには、回想を入れて丁寧に解説した方が親切な気がします。

では、なぜ回想を入れてはいけないのでしょうか。

実は僕自身、回想はあまり使わないという考え方に賛成です。その理由、僕なりの考えをお話ししますね。

ストーリーのテンポが悪くなると人は興味を失う

ドラマは常に前へ前へ進める力が必要です。何もしないで放置してただキャラクターを動かしているだけでは面白くなりません。

よく作家は、人物が勝手に動き出すと言いますが、あれは嘘です(笑)。

本人はそう思い込んでいるかもしれないけど、実際は無意識レベルで意図的に動かしています。

正確には、意識して動かしているけど無意識にそれをやっているです。

ストーリーを前へ進める時に、速度を調整する必要があります。
早過ぎず遅過ぎず、程よい速度を保ちます。時には速めて一気に動かし、また別の時はテンポを緩めてじっくりと描く。

しかし、回想はその流れと速度を一度ぶった切ってしまうのです。それまでのシーンは終わり、全く別のシーンへ飛んでしまう。
視聴者の多くは、あまり気にせずに、ああこれは過去のシーンだな、とすぐ察知してくれます。特にドラマ好きな人はほぼ完全に理解できるため、回想を好みます。

ただ、少数ですが中には突然の場面転換に混乱する人もいます。
演出上で回想シーンをセピア色とかぼや〜っとした映像にすれば、何となく非現実の世界だなと分かります。

でもそれまで追いかけていたストーリーを離れると、そこで別の物語が始まり、混乱するのです。
最終的には理解はできるでしょうが、それまでリラックスして見ていた人は、突然の映像世界の変化に戸惑い、ついていくのに理解力が必要になります。

あれ、これはどこ?誰の話?いつのこと?と疑問だらけになり、思考力を使わないとついていけない人がいるのです。

ミステリーのような謎解きであれば、最初から「よーし謎を解いてやるぞ」と意気込んで見ていますので、視聴者も頑張ってついてきます。
でもそれ以外の、気楽に見ようと考えている人は、突然の場面転換に混乱し、ついていくのに努力が必要になります。

これが苦手な人は、変化の解明を諦めてしまったり、感情移入が浅くなって面白味を失ってしまうんですね。

え、そんな想像力の乏しい人がいるのかって?
案外いるんですよ。全く分からない人はいないにしても、ついていくのにちょっと苦労する人。

理屈でストーリーを理解するのではなく、感覚で理解したい。いちいち頭で考えるのが面倒な人。

あなたがドラマ好きな人なら、そんな感覚はきっと分からないでしょうね。

追いかけられないストーリー には、人は急速に興味を失います。
特に、チャンネル支配権を持つテレビ視聴者は、これ以上見るのは楽しくない(小難しい)と感じて離脱します。

テンポが悪くなるのは、大きな離脱ポイントです。

人種も年齢も様々な人が楽しむハリウッド映画の多くは、回想をほとんど使いません。リアルタイムで進行するストーリーを追いかけるのみ。
少しでも離脱する人を防ぐためですね。

回想による突然の変化に、周りの人物はついていけない

回想とは、登場人物の誰かが、思い出している映像を視聴者に見せている状態です。

回想が影響を与えるのは、回想内の情報を知った登場人物の感情です。

回想をした(過去を思い出した)のが主人公なら、それ以外の登場人物は(その中身を知らされていないので)変化していない。
ドラマの登場人物たち全員が同じことを回想しているというのは、設定上ムリがありますから。

全員が過去に共通の体験をしているならありですが、それは回想というより過去のシーンですね。

回想は、ドラマ内世界では、突然主人公だけが感情変化する現象です。

それ以外の人達の視点からは、「なぜ主人公は突然行動を変えたの?」と疑問符がついているんですよ。

いきなり変化した主人公の気持ちは、映像を見ている私たち視聴者には理解できますが、他の人物の視点からすると、意味不明なのです。

ちょっと下手な例ですが、こんなプロットがあったとします。

【恋愛もの】

主人公の女性が、恋人が外国へ転勤するから一緒に来てほしいと言われた。でも主人公は仕事を優先したいので拒否。彼は空港へ向かう。
オフィスの引き出しの中に、彼に貰ったイヤリングを見つける主人公。

(回想に入る)

これは、主人公と彼の初めてのデートの時に、自分のイヤリングを失くしてしまいガッカリしている主人公に、彼が買ってくれたものだ。

(回想終わり)

オフィスで突然席を立ち、走り出す主人公。彼女は、自分の本当の気持ちに気づいたのだった。

ダサい設定ですが……我慢して下さい(笑)

主人公の視点からすると、感情が激しく動き、突然走り出す。別に不自然な行動ではありません。
でもそれ以外の人物からすると、

「(突然行動した主人公に)びっくりするじゃねえかよ、何だあいつ??」

と感じることでしょう。
でもまあ、主役だから許しましょう。

それと、もう一つ。

回想を、説明が困難な時の応急処置として使っていないか?

そもそもなぜ回想を使いたいか、使いたくなるかを考えてみてほしいんです。

回想を使う時って、説明に困った時ではないですか?

書いていて、何となく単調で面白くなってないし、盛り上がってもいない。人物の感情を盛り上げるのに、盛り上げるための材料が不足している。
そこで、新たな火種を投入したいけど、普通のネタでは物足りない。
そんな時、過去の大きな事件を挟むと盛り上がるなぁ、と。

あるいは。

現在のシーンのまま、主人公に過去のエピソードをセリフで言わせると、ただの説明になってしまう。それじゃつまらない。
退屈さから逃れるために、回想を入れてみようかな、と。

また、このまま続けても単調だなという時に、ふと過去を入れてみたらどうかなと思いつく。
過去と現在をつなぐ説明を入れると、何となくスムーズに流れたような気がする。書いた自分としてはとても満足感があります。

説明のシーンって、実はとても書きやすい。なぜなら、淡々と起こったことを書けばいいから。そこにはほとんど工夫がない。ネタが切れて困った時に便利だから多用しているだけ。
つまりごまかしをしている、ということ。

面白くなるわけないよね。

大事なことは、面白くする工夫から逃げないこと。
面白くする努力をやめないこと、ですよ。

では絶対に回想は使ってはいけないのか?

そんなことはありません。

上で説明したとおり、主人公かまたは別の人物の感情が激しく動き、変化するのであれば、使ってOKです。

ただし、その変化が違和感を感じさせないような配慮を伴っていればの話。

上のダサいプロットの例で言うと、

【恋愛もの】

(回想終わり)

オフィスで突然、席から立ち上がる主人公。
「課長、今から出張行ってきます!」
「おい、この後の会議どうすんだよ……?」

彼女は空港へ向かう。自分の本当の気持ちに気づいたのだった。

オフィスで突然席を立ち、走り出す主人公。彼女は、自分の本当の気持ちに気づいたのだった。

などと、突然の変化をできるだけ自然に見せる配慮を入れるとか。 

おまけ:ロングラン連続ドラマはあえて回想を入れる

参考までに。
連ドラや朝ドラ、大河ドラマは、毎回冒頭や作中で回想を入れる習慣があります。

連続ドラマで、前回を見ていない人や、放送の途中から見始めた人向けの説明用であり、離脱防止のための施策ですね。

せっかくチャンネルを合わせてくれても、初めて見る人、久しぶりに見る人は、途中からだと何をやっているか分からず、興味を持ってくれないかも。
チャンネルを変えられてしまう恐れがあるのです。

そこで、回想を出して前回のダイジェストを見せれば、そこから興味を持って見始めてくれるかもしれない。途中参入、途中離脱が頻繁に起こるテレビだからこその特殊なフォーマットですね。

毎回きっちり見ている方にとっては
「ダルいな……回想なんかいらねーよ」
と思っているでしょうけど、そんな熱心な視聴者だけを相手にしているわけにはいかないのです、テレビは。

僕も基本、大河ドラマは見ないたちでして。いきなり見ようとしても、途中から参入するのはほぼ不可能ですね。

かなり親切に回想やダイジェストを挟んでくれているのですが、あの大河独特の「テレビ枠の世界」って、普段見ない人にとっては難攻不落の城攻めに近いものがあります……(泣)。

朝ドラも同様です。毎朝見るほど熱心じゃないし、かと言っていちいち録画したものを見るのもおっくうでして。

と言いながら2020年前期の「エール」はとりあえず録画してますけどね。
きっと永久に見返さないのでは……(笑)

特に放送回数が多い両ドラマ枠は、途中参入者や中途離脱者が少なくないはずで、そういった人々も後から拾えるように配慮してあげる必要があるということ。

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