映像作品にとって脚本は設計図です。設計図を正確に書かないと、建物を正確に建てることができませんよね。
今回は、ト書きの書き方を解説します。
ト書きとは、簡単に言ってしまえば説明文です。今、画面で何が起こっているのかを簡潔に説明する文章です。
脚本に対する僕の考え方はこちらを参照下さい。
柱の書き方はこちらを読んで下さいね。
あくまで僕の考えをまとめました。
脚本の書き方は人それぞれで、プロが100人いたら100通りの書き方があると思います。
参考程度にお読みくださいませ。
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Contents
ト書きは必要なことだけを簡潔に書く
ト書きは映像に関する説明を行う、本文です。映像に映るものはここで指定します。
逆に、指定がないものは他のスタッフに任せることになります。
なので、必要なら書き込む。でもなんでも書くわけではありません。
たとえば主人公の着ている服装は、必要なら書きますが、不要なら書きません。本人の性格を衣服で表すなら描写してもよいと思いますが、基本的にはあまり触れません。
今後のストーリーの流れに重要な意味を持つ服装なら、描写します。
例を挙げます。
病院のシーンで、看護師の制服を着ていたらナースだと分かりますが、見舞客なら普通の私服です。
看護師なのに病院で私服だったら、看護師と分かりませんよね。
ただし、主人公の職業が看護師で、病院で勤務中であればナース服を着ているのは当たり前なので、いちいち書きません。
ト書きで看護師と分かる書き方をしておけば省略できるからです。
一般人が病院に来たら、普通は見舞客です。なので服装の指定はしません。
逆に、一般人の主人公が病院に侵入して看護師の扮装をする設定なら、『ナース服を着ている〇〇、周囲を伺いながら歩いている』などと書き、特殊な状況であることが分かるように描写します。
また、基本的にト書きは現在進行形で表現します。必ずではないので、過去形で書くプロもいます。
シナリオスクールでは、ほぼ間違いなく注意されます(笑)。
なぜ過去形はダメなのか。
すず、激しく泣きじゃくる。
同じことを過去形で書くと、
すず、激しく泣きじゃくった。
何が違うのでしょうか。
脚本はそもそも今この場で繰り広げられていることを表現します。ということは、現在進行形が最も自然だということです。
だって、もし過去に起こったことを書くなら画面に今登場しませんし、もっと前のシーンで出しとけよ、って話です。
(意味分かりますかね?)
小説だと当たり前に過去形で書きますが、脚本はそこが違います。小説を書いている人はちょっとだけ注意して下さいね。
小説は情景描写の文章群。
脚本は演技演出の設計図。
なぜ過去形で書く人がいるのかちょっと考えてみたんですけど、ひょっとすると、過去形にした方が、何となく雰囲気が出るのかもしれません。
何となく大事なことをやりきった、みたいな感じが出るかも。
ト書きの役割:映像に映るものだけを書く
ト書きの最も重要な役割は、映像に映る重要な要素を、脚本家が指定することです。
映像に映るものは、物の動作だったり人の表情などがそれに当たります。
逆に、映像に映らないものは書きません。
たとえば感情は映らないので別の形で表現して下さい。登場人物がどう動くか、どうアクションするか、どんな表情をするのか。
各々の人物がどう感じているかを表現する部分こそ、脚本家の腕の見せ所なんですよね。
これがいかに上手くできるかはあなたの力量次第です。下手ならつまらない映像になるでしょう。
上手に描写できると、あなたの評価はうなぎ登りでしょう。
ト書きの基本ルール:書式、改行
ト書きは通常、原稿のてっぺんから字下げして、3文字目ないし4文字目から書き始めます。
改行しても同じ高さで揃えます。
(縦書き原稿のフォーマットは後日追記します)
ここもプロが100人いればの例え通り、人それぞれ千差万別のようです。
台本みたいに字下げを大きくして書く方もいますし。戯曲だとほぼ台本原稿そのままですね。
セリフは一文字目から書き始めますから、ちょっと低めに文字が並ぶ感じですね。きっと役者さんが自分のセリフを探しやすいようにト書きは低めに書くのではと思います。違うかな?
ト書きの基本ルール:人物紹介
人物の紹介をするときは、初回登場時のみ、フルネームと年齢をかっこ()で記入します。
山田太郎(18)が走ってくる。
映像に映らないものはどうするか:年代指定はテロップを使う
映らないもので柱にもセリフにも書けないもの、たとえば年代設定などはここで書き込みます。
T 西暦1789年(寛政元年) 江戸
Tはテロップを表します。映像に重ねて表示させることができます。
テロップは他にも、専門用語の解説に使えます。
テレビドラマ『ドクターX』でも、医学用語や病名を画面の下に表示していました。細かい文字がズラッと並んでいて、しかも短い時間で消えてしまうので読みきれないんですよね。
かと言って長々と出しておくとすぐ次のカットに替わってしまい、説明文が意味をなさなくなってしまいます。
ここがテロップの難しいところです。
(脚本家はあまり悩むところではありませんが)
テロップは便利ですが、結局は説明ですのであまり多用できません。映像に文字を入れるのは簡単ですが、やり過ぎると画面がつまらなくなります。
映画やドラマを見ていて、文章が画面にたくさん出てきたら、読むのめんどくさいなと思うでしょ?
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その他のルール:『✕ ✕ ✕』
これは「バツバツバツ」と呼びます(たぶん)。
むしろ他に呼び方があるなら教えてほしいです(笑)。
一つのシーン(場所)の中で、ト書きの途中に入れます。
同じシーンで、ちょっと時間を空けて同じ場所のシーンを続けたいときに用いることが多いです。
同じ場所で演技を続けたい、でも少しだけ時間が経過した後の同じ場面を書きたいときってありますよね。
5分とか10分とか、シーンを変えるほどじゃなく、ちょっと時間が経過した後に、全く同じ場面で演技をしてもらいたい。
または、もっと長い時間が経過し、でも同じ場面で同じ役者たちに演技させたい。他のシーンをはさみたくない。
そんなときに使われるのが『✕ ✕ ✕』です。
これ、シナリオセンターでは使うな、とよく言われます。いや必ず言われます。ほぼ禁止、と言われる(けど使う生徒はけっこういたかも)。
なぜ使ってはいけないのか。複数の講師から聞いたのは、そこはシーンを工夫するところだからというもの。
何だか説得力ないですね。
でも、実際の完成映像をイメージすれば、気づきます。
撮影した後で編集する際に、うまく繋がらないんですよね。
同じ場面で変化がないと、視聴者はそのまま続きを見ていると錯覚します。何らかの方法で、時間が経過したことを明示しなければならないんです。
でも脚本に『✕ ✕ ✕』が書いてあれば、監督さんが配慮して何とか時間が過ぎた感じに仕上げてくれるでしょう(それが仕事だから仕方なく?やるはず)。
映像になった時の事をイメージしてみましょうか。
前のシーンでいったん会話が終わり、そのまま全く同じ場所で演技が再開します。人物が同じなら、前のシーンから途切れずに連続しているように見えます。
映像にすると、前シーンと後シーンとの違いが見分けられないのです。
(実際にそんな映像を編集してしまったら、時間経過は映りませんので、完全に連続した映像に見えるでしょう)
時間的に連続していないなら、何らかの方法で前とは違うシーンですよと視聴者に分からせる必要があるのです。
シーンは、柱が変われば場所を変える必要がある。
『✕ ✕ ✕』は、シーンが変わった事を何らかの方法で表現しなきゃいけないんですが、その方法を、(脚本家の)自分ではなく誰かに任せてしまっているんです。
「どうやってもいいから、変わったことにしておいて」、と放り投げているんです。
それ、無責任ですよね。
全てのシーンをコントロールすべき自分が、役目を放棄しているんですから。
スタッフに任せるのも悪くはないと思います。
が、あまり任せっきりだと自分のイメージからどんどんかけ離れた作品になりますよ。
だからこそ、スクールでは『✕ ✕ ✕』を使わないように、と言うのでしょうね。
『✕ ✕ ✕』を使わずに別の方法を考えることで、基礎的な表現力を磨くことができるし、個性を発揮することができるのです。
こちらを参考までに。
ト書きのルール:フラッシュバック
フラッシュバック(フラッシュ)とは、極めて短い時間内で、人物の過去の記憶を見せる手法です。
たとえば主人公がフィギュアスケート選手で、これからオリンピックに出場するとき。いよいよ自分の出番というときに、過去の大怪我をしたときの記憶が蘇ってきて、恐怖に駆られます。
恐ろしい瞬間の映像を出すわけですね。
回想に似ていますよね。
でもほんの短い時間だけなので、いちいち柱を立てて別のシーンにする必要もないときに使います。
ーーフラッシュバック
リンクでジャンプするすず、姿勢が崩れ、着地に失敗する。
転倒するすず。
(改行)
すず、床にしゃがみ込み、震えだす。
すず「私、もう駄目……」
フラッシュバックの後で、元のシーンにすぐ戻ります。
これも決まった書き方はなく、分かるように書けば問題ないかと思います。
一行目でフラッシュバックだと表記し、シーンを描写し、終わる。
フラッシュバックの終わりは特に明記せずに一行空けて、元のシーンを描写すれば戻れます。
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おまけ:回想が忌避される理由
これもスクールではよく言われますね。回想はできるだけ使うなと。
現在放送されている連ドラを見れば、回想を使っていないドラマはまずないでしょう。必ずと言っていいほど出てきます。
なのに使うなと言うのは不可解ですよね。
スクールは、生徒さんの執筆力を向上させることを考えています。
回想の何がいけないか。これは何度も書いてみなければ、そして書いたものを読み直してみないと分かりません。
そもそも回想はどんな時に使うのか、ちょっと考えてみてください。現実に進行しているお話を一旦中断して過去に戻る。それはなぜ?
例えば、主人公の過去にあったエピソードを説明するために入れる。
そこで説明を挟んで、いい効果があったでしょうか?
この感覚は作者の自分にしか分かりません。自分自身に問いかけてみて下さい。
一つ言えるのは、進行している流れを切ってまで差し込むのは、よっぽど重要なことでないと台無しになるということです。
それが単なる情報では、見ている人は物足りずストレスを感じます。それほど流れを切る行為はやってはならないことなのです。
僕は自分の書いた脚本を読み直して、回想を入れるとそこでスピード感が落ちることに気づきました。邪魔が入る感じっていうんでしょうか。せっかく盛り上がっているのにそれを遮るような。
ただ例外もあって、それは連ドラです。
連ドラは、毎回きちんと見る人ばかりではなく途中から見る人がかなり多いのです。途中参加でも入って来られるよう、毎度毎度説明ポイントを置いておかないとついてこれないのですね。
どうしても入れなきゃならない場合を除いては、入れない方がいいというのが結論です。
でも、ドラマ制作の現場では当たり前に使うので、使い方は知っておいた方がいいですね。
詳細はこちらを参考にして下さい。
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とにかく修行時代は、勉強、勉強ですよ。
実際のドラマや映画を見て、しっかり基礎を学びましょ。
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わかりやすかったです。
参考にさせていただきます!
お読みいただきありがとうございます。
僕も勉強中の身です。一緒に頑張っていきましょう!