『「感情」から書く脚本術』は最強の脚本指南本だ!

 

数ある脚本の書き方マニュアルの中で、今最も勉強になると感じているのが、こちらです。

 

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感情的なインパクトを起こすための書き方

原題は「Writing for Emotional Impact」。
日本語で言うと、「感情的なインパクトを起こすための書き方」となります。

こちらの方がより内容に忠実な感じもしますが、日本でこの本を購入する人はほぼ全員が脚本に興味があるか勉強している方でしょうから、「脚本術」という表現を使ったのは正しいのかなと思います。

少なくとも映画好きな人がこの本を買うとは考えにくいですね。

そしてサブタイトルは「心を奪って釘づけにする物語の書き方」。さすが、脚本に興味のある人に刺さる煽り方が上手いですね。

 

中級者以上向けの脚本指南本

この本は、脚本家を目指す人が読むべき本です。脚本を書くための秘訣がこれでもかと詰め込まれています。

作者はカール・イグレシアス。脚本家であり、脚本コンサルタントであり、スクリプト・ドクターでもある方。スクリプト・ドクターというのは、脚本の問題点を指摘し面白い脚本に直すにはどうすればいいのかをアドバイスする方ですね。

そんな彼が、自身の経験や他の著名なハリウッド映画脚本家達のテクニックを惜しげもなく収録した一冊です。

さて。この本が、実際に脚本を書く上で、本当に役に立つのかどうか、ですが。

数ある脚本指南本の中で、これを読むべき理由は、

ハリウッド映画の脚本術を知りたい人には向いている

ハリウッド映画という「究極のエンタメ」を目指す方には、大いに役立つと思います。

そう、この本は、いかに映画を面白くするかに特化して構成されているのです。と言っても、ハリウッド映画自体の流行や趣向が時代によってどんどん変わっています。昔ながらの単純エンタメのイメージから脱却し、複雑な人間模様を描いた作品も数多く存在しますし、この本も多様なジャンルの作品を取り上げていて、コメディからホラーまで幅広く分析しており、幅広い意味での「面白さ」を追求しています。

それだけに、芸術的な映画の脚本を書きたい方には、正直言ってこの本は得るものが少ないかもしれません。

とにかく面白く!いかに面白い脚本を書くか。にこだわる人向けの一冊です。

脚本の基礎を知りたい人は向いていない

またこの本の中で作者は、脚本を書く技術を述べるのが目的ではない、基礎的な技術を知りたいなら他の指南本を読むように、と再三に渡り警告してくれています。

その割には、本書の章立てが「キャラクター」「物語」「構成」「場面」「ト書き」「台詞」と、まるで初心者向けであるかのような分け方になっているのはどうかと思いますが……。これだと、きっと書店で手に取って読んだ人の中には、基礎を教える教科書かなと勘違いする方もいるのではないかと。

面白い「映画」と面白い「脚本」は別物

映画は完成品。脚本は、それが完成した時点では映像はまだ一秒もできていません。ここが重要なのです。映画は、映画監督が「作りたーい」と思ったらすぐ撮影が始まるわけではありません。

映画制作を企画するプロデューサーがゴーサインを出さないと、制作自体が始まりません。企画が立ち上がり予算を確保できるめどが立ってから、あるいは同時並行で脚本探しが始まる。

脚本には、企画をスタートさせる魅力がなければならないんです。同じことを言っているんじゃないのって? 実は大違いなんですよ。

順序としては、

  1. 企画立案
  2. 脚本を探す
  3. 監督が決まる
  4. 脚本を注文〜初稿完成
  5. 配役を決定(以上がほぼ同時進行、または前後する場合あり)
  6. 脚本の修正を経て、最終稿が完成
  7. 撮影準備
  8. 撮影

……長い道のりですね。

まあ要するに、撮影前の作業なわけです、脚本は。

脚本の出来によって、プロデューサーを納得させられるか否か、制作を一歩前進させられるか企画倒れになってしまうかが決まる、重要なポイントなんです。

読んでつまらない脚本が映像化して面白くなることはめったにありません(が、キャスティングや原作の人気等の要素で、本来の実力以上に観客動員数が増える場合もあるから話は単純ではないですが)。

ということは、見て面白い映画の前に、読んで面白い脚本であるというハードルをクリアする必要があります。

映画として成功する前に、まずプロデューサーを納得させるクオリティでなければならない、ということですね。

 

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ハリウッド映画では、まず下読みが目を通す

ハリウッド映画はまず「下読み」が目を通すところから始まる

ハリウッド映画においては、まず脚本をいきなりプロデューサーが読むのではなく、『下読み』と呼ばれる人たちが読みます。

そして、気に入った作品をプロデューサーに紹介するわけです。

下読みはいわば門番なのだ。脚本家であるあなたと、企画を動かす力を持ったプロデューサーや、俳優、監督、または代理人との間に立ちはだかっているのが、下読みなのだ。ハリウッドにおける下読みの影響力は絶大だ。下読みが「この脚本は凄い」と言えば、上司の誰かが必ず昼休みにその脚本を読む。反対に下読みにつまらないと思われたら、そこで試合終了、先はない。

(P31)

 

では、下読みとはどんな人たちなのでしょうか。

20代前半の、まだUCLAやUSCの映画科に通う学生も多い。おそらく全員何らかの学位を持ち、ほとんどの者は英文学、映画、またはコミュニケーションの学士号を持っている。全員に共通しているのは映画に対する愛、そして映画産業に対する愛情だ。

下読みの多くは、自らもブレークできずに苛立つ脚本家の卵でもある。どうせなら読むのではなく書くことでお金をもらいたいと思っている輩だ。だから他人の脚本を読むときは、当然ピリピリしている。

(中略)実は下読みは脚本家の味方であって敵ではない。本当は脚本家の強力な援護者なのだ。なぜなら、下読みの最大の楽しみは、「最高の1本」、明日の興行収入第1位を発掘することなのだから。万に一つの素晴らしい1本を上司に献上し、重役たちの妨害をかいくぐり、企画開発の地獄をすり抜けて、商業的な大成功を収め批評家の絶賛を浴びる。それが夢なのだ。

(P33)

 

そう。彼らは、自分自身が脚本家として成功したいと思いながら、同時に自分のライバルとなる人材を発掘することが目的な人たちなのです。

当然ですが、誰よりも先に自分が見出されたい。でも他人の優れた作品を発見したら、ぜひとも世に出してやりたい。もし自分が傑作を書いたなら、同じように誰かに見出してもらいたい、という気分でしょうか。この素晴らしい傑作を発見したのは自分だ、という功名心もあるのかもしれません。

そう思えば、この複雑な感情も理解できるというものです。

ハリウッド映画と言えば大ヒット作をじゃんじゃん量産しているイメージがありますが、裏側では大勢の人々が激しい闘いを繰り広げているんですね。

 

「感情」から書く脚本術・刺さる名言集

具体的な技術指南はあるけど、他の脚本術テキストに載っている項目が多く、それを除くと本書の最大の魅力は、『脚本家の心がまえ』にあるのではないでしょうか。

本書のIntroduction(序章)にそれは凝縮されています。

INTRODUCTION ~感情をお届けする商売~

たとえば冒頭、

 

映画の脚本を読むときに読者が感じる感情には3種類ある。つまらない、面白い、そして「ウオオッ!」だ。脚本家の仕事はこの「ウオオッ!」という反応を、可能な限り多くのページで発生させることだ。

(12P)

いきなり来ました名言。刺さります。

さらにその後で、

指南書もセミナーも、読者が引き込まれるような脚本を書かなければならないと教える点では一致している。それでも、巷に溢れる脚本の質に劇的な向上は見られない。確かに、一見向上したように見えないわけではない。新参の脚本家たちは言う、「見てくださいよ、いい感じの構成でしょう。プロットの分岐点はあるべきところにあるし、主人公はちゃんと英雄の旅路をたどっているし、最後にはちゃんと成長して終わるんですよ」。惜しい! あと一歩で大当たりなのに。

(12P)

いい皮肉ですね(笑)

「プロットの分岐点」とは、シド・フィールドの脚本書にある有名な要素です。

 

そして「英雄の旅路」とは、

alabel=Amazonで探す rlabel=楽天市場で探す ylabel=Yahoo!ショッピングで探す

 

に出てくる法則の事を指しているんですよね。

どちらも読んだことがある方なら、この皮肉、とってもよく理解できてニヤリとしてしまいます。

いくら有名な脚本術の本を読んで実践しようと試みても、肝心な何かが欠けていては作品に面白さは宿らない。その先に行きたいなら、ここでこの本を置いてはいけない、と言い切っています。

そこまで言うのなら、気になりますよね。

「脚本を書くというのはファッションと似ています。服の構造はみんな同じです。シャツには袖が2本あり、ボタンがある。でも構造は同じでもどのシャツも違う。学校や指南書は、シャツには袖が2本あってボタンがついていることを教えてくれますが、その知識だけでデザイナーシャツを作ってみろと言っているようなものなんですよ」

(アキヴァ・ゴールズマン『シンデレラ・マン』『アイ・ロボット』『ビューティフル・マインド』)

だからデザイン学校の学生は奇抜な服装を……。

最初の10ページがすべてだと言われるが、その考えは捨てよう。1ページ目からいきなり大事なのだ。そして次のページも、また次のページも大事なのだ。いや、実際にはキャラクター同士の最初のやり取りから蔑ろにしてはいけない。いや、最初の文節から、最初の単語から蔑ろにしてはいけないのだ。

(16P)

ちょ、それができるならとっくにプロになってますがな(泣)

サスペンスの神様であり、観客の心を操る名手だったアルフレッド・ヒッチコックは、『北北西に進路を取れ』の撮影中に脚本家のアーネスト・レーマンにこう言った。「今作っているこれは、実は映画なんかじゃない。私たちは教会にあるようなオルガンを作ってるのですよ。この和音を弾くと観客が笑う。そっちの和音を弾けば観客は息を飲む。この鍵盤を押せば皆がくすくす笑う。そして、いつか映画なんか作る意味がなくなるんです。観客を劇場に座らせ、電極につないでいろいろな感情を弾いて体験させてやればいいというわけですよ」。

(18P)

ヒッチコックの職業はオルガン職人だったのか。いや、オルガン奏者ですな。
ならば重要なのはオルガンの性能ではなく、奏者の「技」と言えるかも。

脚本の名手は、まるで手品師の手の動きのように、巧みに言葉を操って観客の心に意図した感情を起こさせてしまう。物語に登場するすべてのキャラクターを完璧に把握しており、どのタイミングで何を感じ、何を望み、何を恐れるか、自分のことのように知っているのだ。名手は偶然に頼らない。最初のページから最後の110ページ目まで、読者の心の動きをすべて意図的に誘導していく。それが技巧というものだ。

(20P)

110ページというのは、英語の脚本は約2時間の映画の長さを脚本にすると、約110ページとして換算しているからですね。
日本語の脚本だと400字詰の用紙一枚で約1分(弱)と計算するのと同じですかね。

CHAPTER1 読者 ~唯一のお客さん~

この「読者」とは、脚本を読んでくれる下読みやプロデューサーの事を指しています。

あなたが書いた脚本の最初の客は、映画の観客ではない。私たち、下読みさんだ。(略)私たちを楽しませてくれるのは、他ならぬあなた自身なのだ。すべてはあなたの技にかかっている。読者のことを念頭に置かずに素晴らしい物語を紡ぎ上げることはできない。

(30P)

日本のシナリオコンクールでいうと、一次〜二次審査の下読みさんに相当するようですね。

作者は、「下読みはハリウッドというピラミッドでは最底辺の存在かもしれない」と言い切っています。
しかしまた、

ハリウッドの重役たちは良い脚本を追跡できるチャット・グループに参加しているので、下読みが『つまらなかった』とチャットすれば、あっという間に共有されてしまう。ハリウッド中が、あなたの脚本は見込みなしと了解してしまうのだ。

(32P)

重役たちのチャットグループに参加したら面白そう。

下読みの詳細は上の項目で述べたとおりです。
この章の、最も刺さると僕が感じる箇所は36ページにあります。

最初の一文で、絶対に読者の喉元を掴め。次の文で親指を気管に捻じ込め。後は壁に抑えつけて、最後まで離すな。

ーーポール・オニール

これ。いい比喩表現だな〜。スティーブン・キングも同じようなことを言っていますね。

書ける人は文章に自信と確信があるから、最初のページを読めばわかる。そういう脚本を読むと、読者は最初からリラックスして『よかった、ちゃんとわかっている人の脚本だ。さあ、どんな話だ?』とゆったり構えられる。もしのっけからページの半分がト書きで埋まっていたりしたら、あるいは書式が間違っていたら、ガッカリだ。そんなのは素人だよ。

(37P)

これ、ここだけ切り出したらふーん、って感じなんですけど、通して読んでいると、ああそうかー!と実感するんです。

 

ーー撮影が始まってカメラが最初の1コマを撮るまでに、脚本は何度も何度も読まれることになる。ならば、思わずページを捲りたくなるように書くに越したことはない。
(略)あなたが書いた脚本は、例の1ページテストに合格しなければならない。あなたの脚本は、無作為に開いたページがあまりに面白くて、読み続けずにはいられないというほど面白く書けているだろうか。

(38P)

 

例の1ページテストとは、最初の1ページが面白くなければならないという厳しい掟のことです。

要するに、全部面白くなきゃいけないけど、まずは最初の1ページを面白くしなきゃそこで終わりだよ、ってこと。

(しかもその後は全部面白くすること!)←できるんなら最初からやってますけど!

なぜ感情から書くと面白いのか?

本書ではこの疑問について、深く突っ込んで解説していません。とにかく書け、と言うだけ。

まあ面白い脚本が書ければ理由なんて必要ないんでしょうがね。

本書を読み通して感じた印象は、ハリウッド映画界がこれまで磨き続けてきたエンタメ技術の集大成と言えるもの。

本書を読んだからと言って、その疑問が解けるわけではありません。また疑問が解けたからと言って、面白い脚本が書けるわけでもないですが。

そこで、自分なりに考えてみたのがこれ。

 

感情は、飽きない。

これに尽きるのではないでしょうか。

感情は、喜怒哀楽は、何度繰り返しても飽きないんです。面白いコメディは何度でも笑えるし、サスペンスの名作は、何度でも怖がれる。感動する物語は、何度でも泣けるんです。

だから、感情は、最強のコンテンツなのです。

感情を操って、世の中にインパクトを与える物語を書け!

ということですね。

 

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